約 1,837,650 件
https://w.atwiki.jp/srwbr2nd/pages/345.html
驕りと、憎しみと ◆7vhi1CrLM6 横倒しのブラックゲッターの上で、空を眺めていた。 穏やかなときが流れている。 ユーゼスと共にG-1エリアに到着した後の約二時間、特にすることはなかった。 補給ポイントから離れ、見渡す限りの草海原に機体を横たえているだけである。 炉心の火を落とした二機は熱源探査にはかからない。遠目に見たとて、損傷の激しい二機の姿は残骸としか映らないだろう。 仮に興味を持ったとしても、見晴らしのいいここでは接近するまでの間に十分火は灯せる。 だが、この二時間そんな者は現れなかった。ナデシコは愚か鳥の一羽すら空には浮かんでいない。 視線をゼストと呼ばれるユーゼスの乗機へと落す。 湖で拾った白い神像とでも言うような巨神。その抉れた胸にゼストは、背中を合わせて固着していた。 そして、目を凝らすまでもなく分かる。四肢のないゼストが巨神を侵食している。 毎秒1mm程度の速度で、白いその装甲を深紫に染め上げ、同化し、巨神の胸にズブズブと沈み込む。 侵食の速度は全長50mを下らない二機にしてみれば、微々たる速度。だが、それでも既に傷口から7mを超えて侵食されている。 恐らく半日後には二つは一つとなり、全身余すことなくゼストと化すのであろう。あくまでこのままの侵食速度であればの話だが。 得体の知れなさは気味が悪いが、それも今はどうでもいい。 揺れた草花が音を立て、風が頬を薙いでいった。雲の流れは速い。形を変え、移ろい、消えていく。 無粋な思考を頭から追い払えば、本当に穏やかな時間だ。それはいい。 こうしている間にも他者は互いに潰し合い、その数を減らしている。自分だけが休息のときを得ていると思えば、それも悪くない。 だが、今この瞬間もあの男はどこかで生きている。それが許せない。 そして、自分の知りえないところで死んでいく。それはもっと許せない。 焦り。焦燥。自分は何をしているのだと思えてくる。 ユリカを殺した奴をほったらかしにして、何を一人呑気に平穏なときを甘受している。 動け。探せ。見つけ出して殺せ。生きたまま心臓を抉り出し、火にかけろ。 突き上げてきた暗い情念が、囁きかける。それが出来ればなんと楽しいことだろう。 しかし、今、それに応じるわけにはいかない。 我ながら暗い、無粋な思考だ。だが、今やこの暗い感情は切っても切り離せないものとなっている。 怨みも、辛みも、三年前のあの日から片時も離れることなく身近に寄り添っている。 腹の底が静まるのをじっと待って再び見上げた遠方の空に、西から東へと矢のように疾空する二つの機体を見つけた。 笑みが漏れる。 臓腑の底で溜まりを為す暗い粘液のその又底の底で生じた一泡が、濁音を立てた気がした。その異常さに気づかぬまま。 「ユーゼス、敵だ」 ◆ ――存外、簡単に割れたものだったな。 メディウス・ロクスの身の内で一人AI1と向かい合う仮面の男は、そんな感想を抱いた。 右手に掲げ、僅かな明りに照らして眺めているのは、解析の為に預かった謎の薬。 その正体は、拍子抜けするほどあっけなく割れた。既に同種のデータを、AI1が得ていたが為である。 DG細胞――その呼称をユーゼスは知らない。だが、その性質は知っている。 他者に侵食し、取り込み、自己を再生させ、自己を増殖し、そして進化する非常に高度なナノマシン。 希釈されて能力を半減させられていたとは言え、そんなモノがこの薬には仕込まれていた。 ――薬だと? これは劇薬だ。 性質を鑑みるに一時的な感覚器官の強化は、体内に散らばったこのナノマシンが、五感の補助を行なった結果だろう。 だが、効果は一時的なもの。 希釈された状態では、異物の混入に反応した体内の免疫システムに抗いきれない。 免疫システムに抗いながら活動できる限界時間が、恐らく30分の効用時間。その後は駆逐されてしまう。 だから自己保全の為、その時間を過ぎたナノマシンは次のプロセスに移る。成り代わりである。 元々の細胞を壊し、代わりに収まり、何食わぬ顔で機能を代行。そうやって、体の節々に潜伏する。 一度潜伏が完了してしまえば、宿主に異変を知る術はない。見かけの変化は何もないのだ。 この過程が、一時間の副作用。 あの苦しみは、感覚器官そのものを食いつぶされる苦しみ。 いや、感覚器官と言わず身体そのものが、あのナノマシンに取って代わられようとしているのかもしれない。 「ならば――」 ならばこの仮定が正しいとして、体全てがナノマシンに取って代わられたら、どうなる?いや、体全てと言わず体内の免疫システムを凌駕する程の潜伏が完了すれば、最早潜伏の必要はない。 必要がなくなれば、この貪欲な性質上牙を剥くは必定。 残ったテンカワ・アキトの細胞は一つ残らず食い潰され、人を模ったナノマシンの塊が生まれる。 「フ、フフ……フハハハハハハハハハハハハッ!」 込み上げてくる愉悦に耐え切れず、哄笑が響き渡る。 悪くない。素晴らしい。理想的だ。 あの男は苗床だ。生きたナノマシンの苗床。それを手に入れた。 丁度サンプルが少ないと嘆いたところ。実に都合良く出来ている。 ――では私は何をすればいい? 単純だ。ナノマシンの活動を促進してやればいい。 都合の良いことに薬の処方を既に約している。それに細工を施す。 あの首輪から採取した希釈されていないナノマシン。それを仕込む。作業も単純。 惜しむらくはサンプルの稀少さだが、後から元が取れると思えば錠剤一つ分ぐらいは目を瞑れる。 「ユーゼス、敵だ」 かけられた声にそこで一時思考を切り上げた。 モニターを光学カメラに切り替え、周囲を探る。なるほど。遠方の空に二つの機影が見えた。 だが、かなり遠い。接触コースでもない。 目視圏の端を掠めているだけであり、何もない空で動いているからこそ目視出来るレベルのものだ。 恐らく気づかれてはいないだろう。 映像を手ごろな大きさに拡大する。 濃紺の騎士のような大型機と白銀のシンプルな機体。共に隻腕で、戦闘痕がそこここに見て取れた。 「ふむ。何故敵と判断した?」 「大型機のほうと一度交戦した経験がある。左腕はそのときに潰したが、損傷が増えているようだな。 その湖から拾い上げた機体を両断したのも、あの機体だ。白いほうは初めて見る」 「そうか……他には、いやそれよりも『見える』のか?」 「……辛うじてだが、それぐらいは今の俺でも見える」 ――気づいてないのか? この距離で見えるということは、バイザーの補正込みとはいえ最低限人並みの視力を確保しているということ。 バイザー抜きにすれば、やはり人並み以下の視力ではあるのだろう。 だがそれすらも危ういほど、この男の視力は低下していたはずだ。それが僅かとは言え回復傾向にあるということは―― ――存外に潜伏期間は短いのかもしれんな。 それは追い風だ。 この男からナノマシンを採取できる時期が、そう遠くないことを示している。 「追うか?」 「そうだな……だがそれは私がやろう。君にはあれの飛んできた方角を調べて貰いたい」 あの弾丸のような速度と軌道を考慮すれば、明確な目的地が存在するのか。あるいは何かから逃げているのか。 目的地が存在するとすれば、それは周辺空域を回遊しているナデシコである可能性は高い。 ともかく、前も後ろも気になる。可能ならば全てを把握しておきたい。 どうせこの男には、自分が必要なのだ。むざむざ逃すこともない。合流の手順を簡潔に伝える。 「……ゲッター炉心は?」 「簡易ドック程度の設備が欲しい。ナデシコを捉えるまで待て」 「薬は?」 「今、処方している。注意点が一つ。効果の継続時間を少なからず伸ばしておいたが、それに比例して副作用の時間も伸びる見込みだ。 実際にどれほど持続するかは、服用してみないことには何とも言えん」 「十分だ」 これでいい。 元の薬を使い切るまで、こちらの手渡した薬を使わないことは十分に考えられる。その程度の警戒心はあって当然。 だからより強力であることを強調した。服用せざる得ない敵、状況というのは必ずどこかに存在する。 それに嘘は言ってない。一度に摂取する量が増える以上、免疫システムに抗える時間が増えるのは必然。 同時に量の増加は、潜伏に要する時間の増加も招く。 読みきれないのは神経にかける負担。量の増加がどれだけ五感を鋭敏にするのか、それは分からない。 「逸るな。ゼストもゲッターも万全ではない。無理はしないことだ。 ナデシコもエリア内のどこを回遊しているか分からないことだし、無用な警戒を抱かせることはない」 やや間があって反抗的な視線と共に「了解」との返事。どうせ数を減らすことばかり考えていたのであろう。 「一つ聞きたい。この薬を二錠同時に、あるいは効果が切れる直前にもう一錠服用すれば、どうなる?」 「それは現時点では何とも言えない。効果時間の継続が狙えないとも限らないが、お勧めは出来ないな」 「……分かった。貴様が処方したという薬をよこせ」 「少し待て」 懐からナノマシンのサンプルを取り出す。 この大元となったあの変質した首輪は、バーナード・ワイズマンと共に失われた。 今も手元に残っている量は、そう多くない。 必要な分量だけを削りだし、すり潰し、粉に。さらに何工程か手を加え、錠剤を作り上げる。 ナノマシンの濃度は、アキトの有する薬の数倍。だが外見上の違いは、何もない。 その出来栄えに満足気に笑う。 処方を終え、視線を再度遠ざかる二機に向けた。 十二分の距離を置けたことを確認。この距離ならばそうそう気づかれることもないだろう。 作り上げたばかりの薬をアキトに、預かっている薬は手元に、そして彼らは二手に分かれる。 次の駒。新たなる未知の技術。それらに対する期待を胸に、仮面の男は再び動き始めた。 【テンカワ・アキト 搭乗機体:ブラックゲッター パイロット状態:マーダー化、五感が不明瞭(回復傾向)、疲労状態 機体状態:全身の装甲に損傷、ゲッター線炉心破損(補給不可) 現在位置:G-1 第一行動方針:現在地(G-1)より西を探索 第二行動方針:ナデシコの捜索とユーゼスとの合流 第三行動方針:ガウルンの首を取る 第四行動方針:キョウスケが現れるのなら何度でも殺す 最終行動方針:ユリカを生き返らせる 備考1:首輪の爆破条件に"ボソンジャンプの使用"が追加。 備考2:謎の薬を3錠所持 (内1錠はユーゼス処方) 備考3:炉心を修復しなければゲッタービームは使用不可 備考4:ゲッタートマホークを所持】 【ユーゼス・ゴッツォ 搭乗機体:メディウス・ロクス(+ラーゼフォン) パイロット状態:若干の疲れ 機体状態:全身の装甲に損傷(小)、両腕・両脚部欠落、EN残量80%、自己再生中 機体状態2:右腰から首の付け根にかけて欠落 断面にメディウス・ロクスのコクピットが接続 胴体ほぼ全面の装甲損傷 EN残量40% 現在位置:G-1 第一行動方針:東進する二機(統夜・テニア)の追跡 第二行動方針:ナデシコの捜索、アキトと合流、AI1のデータ解析を基に首輪を解除 第三行動方針:他参加者の機体からエネルギーを回収する 第四行動方針:サイバスターとの接触 第五行動方針:20m前後の機体の二人組みを警戒 第六行動方針:キョウスケにわずかな期待。来てほしい? 最終行動方針:主催者の超技術を奪い、神への階段を上る 備考1:アインストに関する情報を手に入れました 備考2:首輪の残骸を所持(六割程度) 備考3:DG細胞のサンプルを所持 備考4:謎の薬(希釈されたDG細胞)を一錠所持 備考5:AI1を通してラーゼフォンを操縦しているため、光の剣・弓・盾・音障壁などあらゆる武装が使用不可能 備考6:ユーゼスに奏者の資格はないため真理の目は開かず、ボイスの使用は不可 備考7:ラーゼフォンのパーツ部分は自己修復不可】 【二日目 14 15】 BACK NEXT Stand by Me 投下順 かくして漢は叫び、咆哮す 心の天秤 時系列順 Stand by Me BACK 登場キャラ NEXT 仮面の奥で静かに嗤う ユーゼス 王の下に駒は集まる 仮面の奥で静かに嗤う アキト かくして漢は叫び、咆哮す
https://w.atwiki.jp/srwbr2nd/pages/316.html
黄金の精神 ◆VvWRRU0SzU 「こちらはJアーク、キラ・ヤマト。もしこの声が聞こえていたら、応答願います。こちらはキラ・ヤマト、戦う気はありません」 補給を済ませ、休息を取っていたアイビスの耳に届いたのは少年の声だった。 食べかけのパンを放り出し、慌てて物陰に伏せさせていたネリー・ブレンのもとへ戻る。 発信源を探すまでもなかった。声の主は巨大な戦艦で、なんら警戒もせずに街の中央に陣取っている。 あの位置からならクルツの機体が引き起こした爆発の痕跡を見てとれるだろう。 声の主はここで大規模な戦闘があったと推測し、生存者がいないか呼びかけているのだ。 呼びかけに応じるかどうか、逡巡する。 見たところあの機体、いや戦艦は100mはあろうかという威容で、大してこちらのネリー・ブレンはせいぜい10mといったところ。 機動性はさすがに勝っているだろうが、そこかしこに見える砲門やミサイル発射管は凄まじい火力を容易に連想させる。 こちらは一度でも直撃を食らえばそこで終りだが、あの巨艦はたとえ全力でチャクラ光を放ってもそう簡単に落ちはしないだろう。 戦力差から接触すべきではないか、という結論に落ち着きかけたところで、再び声が響く。 「もし誰かいるのなら、聞いて下さい。僕は主催者に反抗する仲間を求めています。 たしかに脱出するより勝ち残る方が生きて帰れる確率は高いのかもしれません。でも、それではダメなんです。 たとえ優勝できたとしても、その人が無事に解放される確証なんてないし、もしかしたら用済みだって殺されるかもしれない」 声にはどんどん熱がこもってきた。誰かに聞かせているというよりは、自分の中の想いを言葉にして確かめているという印象だ。 「僕には戦うことを……生きることを否定することはできません。大事な人が殺されたのなら、殺した誰かを憎む、ことは……当然のことです。 でも、この世界ではそれが全てではないはずです。襲われたから、撃ってきたから撃ち返した、そんな人もいるでしょう」 アイビスの脳裏に今はもういない人の顔がよぎっていく。 自分を守って死んだジョシュア、シャア、クルツ、ラキ。そして彼らを殺したギンガナムに抱いた目も眩むほどの殺意。 「僕も、友達を……大事な人を、失いました。一度はその人たちを生き返らせたいと思ったこともあります。 でもきっと、彼らはそれを望まない。誰かの命を対価に生き返ることを、そのために僕が誰かを殺すことを、絶対に許しはしないでしょう」 彼らはどうだろうか? もしアイビスが戦い、勝ち残ることで生き返ることができるのなら、望むのだろうか? ……考えかけて、しかしそう考えること自体が、命を賭けて自分を守ってくれた彼らに対する侮辱になると、思った。 「だから僕はこの戦いの原因を討ちます。無謀なことだけど、それがきっと、みんなの……もういない人たちへの、弔いになると思うから」 まず生きることを考えていたアイビスに、その声は道を示してくれたような気がした。 勝ち残るよりも、主催者を倒して、生きて帰る。それこそが彼らに報いるただ一つの――― ふとモニターを見れば、戦艦が回頭していく。応答はないと判断し、ここを離れるようだ。 「もしこの声を聞いていて、でも信用できないと思う人がいるなら。僕は次の放送の時にE-3地点にいます。 そこに多くの人を集めて、話し合うつもりです。少しでも戦いたくないと……優勝以外の道があると思うのなら、来て下さい。 僕は、僕のできる限りの力で、戦いたくないという人を守ります。だから、」 「待って!」 気がついたら叫んでいた。まだ喋っている途中だった戦艦の主は、突然響いた自分以外の声に驚いたか言葉を切った。 ネリー・ブレンを浮上させる。ほどなく、戦艦もこちらに気づいて転回した。 「あなたは……?」 「この機体はネリー・ブレン……私はアイビス。アイビス・ダグラス。戦うつもりはないよ」 砲門が向いていても、きっとあの声は撃たない。アイビスはそう確信していた。 いかに機体に自信があろうと、戦いに積極的ならああも無防備に隙を晒すことはないはずだ。 「あたしは……あたしも、ここから生きて帰りたい。勝ち残る以外の方法で。でも、一人じゃどうすればいいか、わからなくて、ええと、なんていうか……」 威勢良く声を上げてしまったが、まだ何を言えばいいか頭の中で纏まっておらずしどろもどろになった。何か言わねば、と焦って口にしたのは。 「つまりその、そう、あたしもあの化け物を倒すのを手伝いたい! ……ってことなんだけど……」 端的だが、言ってしまえばこれがまさに自分のすべきことだという気がしてきた。 どのみちそろそろ動かねばならないと思っていたし、少なくとも好戦的ではないであろう少年は情報交換などの接触の相手としては申し分ない。 「……」 「……あの、何か言ってほしいんだけど」 「あ、すみません! ええと、僕と一緒に戦ってくれるんですか?」 「うん、さっきの演説聞いちゃったしね。よろしく……キラ」 「あ……よろしく、お願いします。アイビスさん」 「呼び捨てでいいよ。そんなに歳離れてなさそうだし」 こうして、共に大事な人を失いながらも歩みを止めない少年と少女は出会った。 □ やってみて良かった、キラは心底そう思った。あれだけの爆発の痕跡からして、正直なところ生存者はいないと思っていた。 キラとしてはこの後接触するであろうナデシコとの対話に向けての予行演習のような気分で喋っていた。 そこにまさか応答が、それも自分の目的に賛同する者が現れるとは。 ロジャーと別れた後(いつの間にかいなくなっていたソシエは、まあロジャーと一緒なら大丈夫だろうと考えることをやめた)、補給の必要のないJアークでは補給ポイントに寄る意味もなく、ならば市街地で人を集めようとこのD-3地点に赴いた。 薙ぎ倒されたビル、穿たれたクレーターなどそこはなにか凄まじい戦闘があったと感じさせる様相を呈していて、しかし見えるところに健在な機体は認められなかった。 トモロにはあまり意味がないと諭されたが、それでもキラは呼びかけずにはいられなかった。 故郷ヘリオポリスが壊滅した時のように、取り残された誰かがいるかもしれないと思ったから。 アイビスという少女と接触後、ネリー・ブレンという機体を甲板に係留し、ブリッジにアイビスを通した。 まずお互いに改めて自己紹介をし、情報を交換していく。 『トモロ0117だ。よろしく頼む』 「わっ!? 何、誰?」 「トモロはこのJアークの制御AIなんだ。僕の仲間だよ」 といった一幕もあり、支給された食糧で慎ましくも穏やかな時間が流れた後。 『キラ、この空域に接近する機体がある。これはF91だ』 「F91……ジョナサンさんが! 無事だったんだ」 もはや懐かしい気分すらする、キラの最初の仲間。 偵察に出ると言ったきり戻ってこなかったが、こちらがダイの討伐に動いたことも合流できなかった原因の一つでもある。とりあえずは謝ろう、と思い、通信を行う。 「こちらはJアーク、キラ・ヤマト。F91、応答して下さい」 「……こちらはガンダムF91、アムロ・レイ。キラ・ヤマト、その白い戦艦がJアークか?」 場所を示す意味も込めて呼びかけるが、帰ってきた声はキラの知らない、だがアイビスの知る声だった。 「……え?」 「アムロ……!? アムロ! あたし、アイビス! 無事だったんだ!」 「アイビス、君も無事だったか。君がその戦艦と一緒にいるということは、信用できる仲間ということか」 アイビスはいきなり呆けたような顔になったキラを押しのけ、通信管に向けて叫んだ。 やがて現れたF91はJアークの前で停止した。その姿はキラがジョナサンと別れた時と違い、激しい戦闘を潜り抜けたことを示すように傷つき、薄汚れていた。 「Jアーク、着艦許可を求む。俺は戦う気はないし、そこにいるアイビスの仲間だ」 「キラ、アムロは信用できるよ。それにすごく強いんだって。これできっとなんとかなるよ!」 「……アムロ、さん。すみませんが僕はまだ、あなたを信用できません」 喜ぶアイビスにキラの返した声はしかし張りつめたものだった。 「ど、どうしたの? アムロは敵じゃないって」 「ごめん、アイビスは少し黙ってて。……トモロ、ジェネレーティングアーマー、いつでも動かせるようにしておいて」 『了解だ、キラ』 俄かに緊張しだしたブリッジで、アイビスはキラを制止しようと操縦席に座る彼の横に立った。 だが強い緊張に強張る横顔を見て口を開けない。まるで敵と戦っているような顔だった。 「……確かに俺と君は面識がない。だが、アイビスから聞いてくれればわかる。俺は戦いに乗っては」 「じゃあその機体はなんですか。それは元は僕に支給されたもので、今は別行動している仲間が乗っていった機体です。 それに、別れたときはそんなに傷ついていなかった。疑う理由としては十分じゃないですか」 アムロに最後まで言わせず、キラは畳みかけた。ジョナサンはたしかに全面的に信用するにはどこか抵抗のある男だったが、だからといって殺して機体を奪ったのなら信用などできるはずもない。 アイビスの様子を見やれば、衝撃を受けたような顔だった。 仲間が人殺しかもしれないと言っているのだから当たり前かな、とキラは胸に痛むものを感じ、しかし追及の手は緩めない。 「あなたがアイビスと別れたとき、乗っていたのは戦闘機だったと聞いています。僕の仲間を殺して奪った、その可能性がないと言い切れるんですか?」 「で、でもアムロはそんなこと……!」 「……アイビス、俺が話す。君は口を挟まないでくれ。 さてキラ、その証明はできない。だが俺からも一つ聞こう。 もし俺が君の言うとおり君の仲間を殺してこの機体を奪ったとして、君はどうするつもりだ? 俺を仇として討つのか?」 返ってきたのは釈明や謝罪ではなく問いかけだった。 数時間前のロジャーとの対峙を思い出す。 あのとき自分は話し合うために人を集めてほしいと言ったが、仇かもしれない相手が眼前にいるこの状況、返す言葉は。 「いいえ。僕はどんな状況であなたがそのF91に乗ったのか知らない。 もしかしたら僕の仲間があなたに襲いかかって返り討ちにされたのかもしれないし、乗り捨てられていたF91をあなたが見つけた、あるいは本当に殺して奪ったのかもしれない。 だから、まずあなたの話を聞いて判断します。その上で、あなたが戦うと、争いの環を広げると言うのなら……」 「……どうする?」 「討ちます。戦いたくはありませんが、少なくとも僕の見ている前では、勝手な理由で誰かの命を奪うことは絶対に許しません」 思えばそう、平和を歌うラクスも戦うことのすべてを否定することはなかった。 想いだけでは成せないことがある。力がなければ、戦わなければ守れないものがある。 だからこそアスランはザフトに入って戦う力を得たのだろうし、自分も望んでストライクに乗ったのだから。 戦うことを躊躇わないのなら、あと必要な物は戦うに値する理由だ。ダイ、ナデシコと戦ったときはそれを誤った。もう二度と同じ轍を踏むわけにはいかない。 「アイビスの言うことを全て信じるわけにはいきませんが、だからといってすべて切り捨てることもできません。 だから、あなたの話を聞いて、それから判断します。あなたと戦うべきかどうかを。それが、僕の譲れない立場です」 言うべきことを言った。キラは警戒を解かず、アムロの返答を待つ。 「了解した、キラ。君の立場は俺に近いもののようだ。ならば俺も示そう、俺の立場を」 モニターの中のF91が動いた。攻撃かと思ったがそうではない。あれは――ー 『F91、コックピットを解放した。あのパイロット、正気か?』 トモロの声にもっともだと思った。警戒されている相手の前で、コックピットを開き生身を晒す。 自分も救助したラクスを引き渡すとき同じことをアスランの前でしたが、あれはアスランなら絶対に裏切らないという幼馴染だからこその信頼があったからだ。 少なくともキラは自分に今、この場で同じことができるとは思わなかった。 「君の仲間はジョナサン・グレーンという男だろう? この機体は彼の仲間から譲られたものだ。今は別行動だが、俺も間接的に彼の仲間と思ってくれていい」 コックピットから出て、ハッチに立つ相手。あの位置ではシートに戻るより確実にこちらの攻撃が早い。 言葉ではない。アムロという男の放つ『覚悟』そのものにキラは呑まれた。 「もう一度言う、俺は戦いに乗っていない。そして、ともに主催者に抗う者を探している。 キラ、君も俺達とともに戦ってほしい。君の気高い『覚悟』、信じるには十分だ。 君の力、想い。それは俺やそこのアイビスとなんら変わらないはずだ。俺を信じてくれないか?」 アムロはこちらを……ブリッジの操縦席にいる自分を認識しているかのように、目線を動かさない。 キラにも理解できていた。この人は戦いに乗っていないと。自分よりよほど強く、そして大人であると。 横に立つアイビスは何か言いたげにもじもじとしている。そういえば黙っててくれと無下に言ってしまったな、と少し後悔した。 「キラ、その……」 「ごめん、アイビス。僕にもわかったから。……トモロ、戦闘態勢を解除して。アムロさん、誘導します。着艦して下さい」 『了解。ジョナサン・グレーンよりよほどマシなやつが来てくれたな』 トモロの皮肉に苦笑する。確かにキラの中にも、どこか邪気のあるジョナサンよりもアムロの方が信頼できるという気持ちが芽生えつつあった。 「信じてくれたか。感謝する、キラ」 「いいえ、僕の方こそ疑ってしまって……」 「もう! ハラハラさせないでよ! あたしだけ除け者みたいだったし!」 「ご、ごめん……」 「いや、アイビス。この状況ではキラくらい慎重になった方がいい。結果的にお互いの立場もわかったしな」 「横で聞いてるだけのあたしは気が気じゃなかったよ! 両方から黙ってろって言われたし!」 「む……それはすまなかった」 「ごめん……」 F91が着艦する。不安やら怒りやらでよくわからない気持ちを吐き出し続ける少女をなだめ、ともに『ガンダム』と浅からぬ縁のある少年と男が出会った。 □ ここにきてようやく追い風が吹いてきた、アムロはそう思った。 戦艦Jアークのブリッジにて邂逅したアイビス、キラ。 懸案だった少女と、自らと同じ志を持つ少年。心強い仲間だ。力は集いつつある。 自己紹介と言うべきものは先程終わっている。一通り情報交換を済ませ、アムロはようやく人心地ついた。 思えばここに来てから気の休まったときはないように感じた。 何故か核ミサイルに乗ったシャアとの出会い、バリアを持つ赤い機体との戦い、アイビスとの出会い。 殺戮者の駆るライオン型のメカとの戦い。それを振り切ったかと思えば唐突に感じた核の光、宿敵の喪失。 廃墟の町で狙撃者と戦い、ニュータイプを知る少年ガロードと出会い。 このF91に乗り換えてすぐ戦った男、ガウルン。思えば奴を仕留め損なったのはまずい。いずれ決着をつけねば。 ……考えてみて。しかしよく生き残れたものだと逆に呆れる。どの戦いも、一手指し損なうだけで刻の涙を見る事態になっただろう。 だがやっと、勝ちの芽が出てきた。 己の力を最大限に出し切れるF91という機体。 新たな仲間キラ、彼の機体Jアークは強力なのが見てわかる。 アイビスもまた、迷いを吹っ切ったようだ。機体は変わっているが、彼女を守るという意志は前の機体と変わらないように思えた。 これで基地でブンドルと合流できれば、脱出は現実的なものとなる。できればカミーユとも合流したいが、今のところ手がかりはない。 彼がそう易々と死ぬとも思わないが、急ぐに越したことはないだろう。 「さて……大体話すべきことは話したな。俺は機体の整備をさせてもらうよ」 口いっぱいに菓子パンを頬張るアイビスと、それを笑いながら見ているキラに声をかけた。 「補給が済んだとはいえ、F91には随分無茶をさせた。ここらで一度しっかり手を入れておきたい。 ああ、その後Jアークの設備を借りてもいいか、トモロ。やっておきたいこともある」 やっておきたいこととはもちろん首輪の解析のことだが、これは口には出さなかった。 盗聴を警戒してのことでもあるが、何故持っているのかと聞かれると説明するのは心苦しいからだ。 「あ、じゃあ僕も手伝います。ガンダムの整備は元々やってたし、慣れてますから」 既にキラも自分やガロードと同じくガンダム乗りだったことは聞いている。 とはいえニュータイプを知らないことから、アムロともガロードとも違う世界のガンダムだという話になったが。 「いや、こう見えても俺は技術者でね。それに整備をやっていたといっても、パイロットがするのはハード面のことだろう? 深刻なのがOS周りなんだ。こればかりは専門でないと分からんさ」 「あ、それならやっぱり力になれると思います。プログラミングは得意ですから」 『それは私も保証しよう。コーディネイターなる種の特性かはわからないが、キラのプログラミング能力は一般人のレベルを超えている。 GGGに勤務していても遜色ないレベルだ』 とトモロが補足する。GGGなるものはよくわからないが、高性能であるのは疑いようもないAIが言うのだから間違いはないのだろう。 「ふむ……ならキラ、手伝ってくれ。F91にはどうも俺の世界の未来の技術が使われているようでな、正直なところ俺も完全に使いこなせるとは言えないんだ」 実際そんなに激しく変化しているわけではなかったが、ここからは聞かれるとまずい。話しつつもその手は取り出した紙に字を連ねていく。 『実は一つ首輪を入手している。死亡していた人物から拝借したものだが、君に解析を頼んでもいいか、キラ?』 紙を見せるとともに懐から首輪を取り出す。今だ血がこびりつくそれを出すのは抵抗があったが。 息を呑むアイビスとキラ、だが取り乱したりはしなかった。その程度には信用されているのだろう。 「わかりました。ただ、やっぱりアムロさんの世界のものですから、僕一人では……」 意図は理解してくれたようだ。首輪を受け取り、しっかりと頷くキラ。 「あ、あたしは何したらいいかな? プログラミングとかできないんだけど……!」 アイビスもただならぬ空気は察したのか、真剣な顔だ。とはいえ彼女には解析技能がない以上、取り立ててしてもらうこともない。 「そうだな……俺とキラが整備をしている間、警戒が疎かになるのも困る。ここで周辺の監視を頼む」 「うん、ついでにアイビスの機体も整備しておくからここはお願いするよ。 ……そうだ、それでももし退屈ならトモロ、Jアークの操縦方法をレクチャーしてあげてよ。 僕も戦艦の操縦なんて得意なわけじゃないから、他にできる人がいた方がいいし」 「わかった。よろしく、トモロ」 『了解した』 ブリッジを出て、キラと他愛もない話をしながら格納庫へと向かう。 本当に、風が吹いてきたようだ。戦力以上に解析のできるキラが仲間に入ったのは大きい。 ブンドルと合流するまで時間はある。少しでも首輪を解析するのは、主催者の手の内を知る大きな一歩となるだろう。 ――ーそうだ、ここから俺達は反撃する。いつまでも俺達がフラスコの中でおとなしくしていると思うなよ……! 心中で吠える。 シャアを殺した者、ガウルン、主催者。敵は多いが、それ以上に心強い仲間がいる。 きっと、俺達は勝利する。楽観かもしれないと思いつつ、アムロはその気持ちを抑えられなかった。 【アイビス・ダグラス 搭乗機体:ネリー・ブレン(ブレンパワード) パイロット状況:精神は持ち成した模様、手の甲に引掻き傷(たいしたことはない)、満腹 機体状況:ソードエクステンション装備。ブレンバー損壊。 EN100% 無数の微細な傷、装甲を損耗 現在位置:D-3 北部 第一行動方針:周辺の監視 第二行動方針:Jアークの操縦を覚える 最終行動方針:精一杯生き抜く 備考:長距離のバイタルジャンプは機体のEN残量が十分(全体量の約半分以上)な時しか使用できず、最高でも隣のエリアまでしか飛べません】 【キラ・ヤマト 搭乗機体:Jアーク(勇者王ガオガイガー) パイロット状態:健康、ジョナサンを心配(若干の申し訳ない気持ち) 機体状態:ジェイダーへの変形は可能? 各部に損傷多数、EN・弾薬共に100% 反応弾を所持。 現在位置:D-3 北部 第一行動方針:F91、ネリー・ブレンの整備及び首輪の解析 第二行動方針:出来るだけ多くの人を次の放送までにE-3に集める 第三行動方針:ナデシコ組と和解する 最終行動方針:ノイ=レジセイアの撃破、そして脱出】 備考:Jアークは補給ポイントでの補給不可、毎時当たり若干回復。】 【アムロ・レイ 搭乗機体:ガンダムF91( 機動戦士ガンダムF91) パイロット状況:健康、若干の疲労 機体状態:EN100% ビームランチャー消失 背面装甲部にダメージ 頭部バルカン砲・メガマシンキャノン残弾100% 現在位置:D-3 北部 第一行動方針:F91、ネリー・ブレンの整備及びJアークの設備を使い首輪の解析 第二行動方針:基地に向かい首輪の解析 第三行動方針:基地にてブンドルと合流 第四行動方針:協力者の探索(カミーユ優先) 第五行動方針:首輪解除のための施設、道具の発見 最終行動方針:ゲームからの脱出 備考:ボールペン(赤、黒)を上着の胸ポケットに挿している ガウルンを危険人物として認識 首輪(エイジ)を一個所持】 【二日目 9 00】 BACK NEXT 判り合える心も 判り合えない心も 投下順 風と雷 追い詰められる、心 時系列順 判り合える心も 判り合えない心も BACK NEXT 疾風、そして白き流星のごとく アムロ 獣の時間 二つの依頼 キラ 獣の時間 Shape of my heart ―人が命懸けるモノ― アイビス 獣の時間
https://w.atwiki.jp/srwbr2nd/pages/122.html
休息 ◆960Brut/Mw 幼い少女の声が過ぎ去ったとき、テンカワ=アキトは安堵のため息を大きく吐いた。 あのとき、赤いマフラーが印象的な機体は自分が遠ざけた。だが、不安はあった。 あの場には少なくとももう一機危険な機体がいたはずだったのだが、そちらの対応にあたったネゴシエイターが上手くやったのだろう。 ユリカはあの修羅場を無事に乗り切れた。アキトにはそれだけで充分であった。 その他のあげられた名前はただの名前。 今まで復讐のために巻き込んできた罪のない者たち以上に彼にとっては意味のない名前にすぎなかった。 しかし、ただ一人の少女の名前だけは少し違っていた。 リリーナ=ドーリアン――完全平和主義を信念にこの殺し合いの平和的解決を図った少女。 本懐を遂げることなくその少女の名が放送に連なったときにだけ、彼は軽い落胆を覚えた。 少女が名を連ねたということは平和的解決の不可能を象徴的に突きつけている。 別に少女に感化されたわけではなかったし、そんなことが可能だという甘い幻想を抱いていたわけでもなかった。 だが、心の奥底にもしかしたらという思いもわずかながらあったのだ。 生きて帰ることができたなら、自分にはしなくてはならないことがあったから・・・。 どちらにせよ自分のやることには変わりはない。 ユリカを守りぬく ただそれだけだ そして、自分の復讐が未完に終わった ただそれだけのことだった 無理だ。そんなことできるはずがない 一瞬、北辰の顔が頭をよぎる。そのとたんに連鎖するように激情が内で渦を巻く。 精神の乱れを反映して顔はうっすらと発光し機体は大きくぶれて失速していく。 諦めようと思って諦めきれるはずがない。今の彼はそのためだけに生きてきたのだから。 だからといってここでユリカを見殺しにはできない…… 自分の復讐よりも彼女の命は優先。それは明白だった。 しかし、仇敵の顔一つ思い浮かべただけでこの様だ。忘れることなど不可能だった。 だから彼は激情を無理やりにでも胸の奥にしまい込み、押し込める。 忘れることはできない。そして引きずられてもならない。 大きく息を吸って溜息を一つ小さく吐く。 それでゲーム開始時と全く同じところに陥った気持ちを強引に切り替えた。 それにまるで呼応するように機体は安定を取り戻し速力も通常に回復いていく。 BDIシステムを通して彼の脳裏に映し出されているのは足もとに広がる雲海と地平に沈みゆく夕日。 彼は今会場の遙かな上空を一人C-5ブロックへと向けて飛んでいた。 本当はまっすぐD-7ブロックへと直行したかったのだが、ハイ・マニューバモードのツケか、機体に燃料はほとんど残されてはいなかった。 それでしかたなく彼は知っている限りでは最寄りのC-5補給ポイントへと向かっていたのだ。 そして、機体は間もなく目標空域に入る。 一度、座標を慎重に確認する。今のYF-21は戦闘機といっても過言ではなく離着陸には相応の滑走を要する。 目標地点は森林の真ん中ぽっかりと穴が空いたように開けた草原地帯とはいえ、座標のずれはそのまま機体が森林に飛び込み大破することを意味していた。 無論、夕刻のこの時刻だろうと草原地帯では滑走路に沿って明かりが灯っているなどという気の利いた設備などあろうはずもない。 ずれを確認すると航路を慎重に修正し予定の座標に徐々に軸を合わせていく。 座標の修正終了とともにYF-21は着陸態勢に移っていった。 航空機が低空を飛ぶ際、地上に伝わる轟音が耳に届いてガウルンは上空を見上げた。 しかし、その眼に映ったのは鬱蒼と生い茂った木々だけであった。森の中である無理はない。 「チッ!しけてやがんな……」 舌打ち一つ、愚痴一つで周囲の地形を確認し頭を働かせる。 今の航空機は周囲を確認しづらい森林地帯で低空飛行をしていた 見つかる危険性があるのにどうして?何のために?決まっている 奴は着陸したがってるのさ 地図によるとここら一帯は森林地帯。しかし、この先に一か所だけ開けた草原地帯がある さっき補給を行った場所だ。ここらで離着陸できるとしたらそこしかねぇよな 自然と口元がほころび笑みがこぼれる。 影も形も見えない追撃に飽いてきてたところだ 行きがけの駄賃にとっといても悪くはねぇ そう考えたガウルンは草原地帯に向けて機体を走らせる。密集する木々の隙間を機敏に走り抜け最短ルートで目的地に静かにしかし素早く急行する。 視界が広がりひらけた土地に踏み入る寸前で黒い機体は茂みに紛れこみ、機関を停止する。 そうやって隠れて獲物を狙う飢えた獣のように周囲の景色と一体化した。 ほどなく獲物は狩り場へと迷い込み地に足をつける。 なかなかだ。なかなかにいい腕をしている 楽しめそうじゃないか 再びニンマリと笑みがこぼれた。 滑走路でも、整備されたアスファルトでもない凹凸だらけの草原。 そこに澱みなくスムーズに機体を着陸させたことがパイロットの腕の良さを物語っていた。 いつ仕掛けるかなぁ そうだなぁ……。離陸の瞬間がいい せっかくの獲物も地上にとまった戦闘機では魅力半減だった。 魅力を引き出してやるためにはどうすればいい?答えはシンプルだ。 お空に浮かべてやればいい。 だが、完全に飛び立ってしまえばそのまま逃げられてしまう公算もでかい。 ならば離陸の瞬間を狙う。うまく飛び立ってしまったあとは逃げ出しても良し、向かってくればなお良し。 この遊びの楽しみは相手が見事飛び立ってみせるか、飛び立つことかなわず哀れに散ってしまうかというところにある。 その後はただのおまけでしかなかった。 しかし、その考えもほどなく一変する。 機体から降りてきて補給を施す標的の姿を見たとき、ガウルンは思わず身悶えするようなの喜びに駆られた。 ご同類のご登場ときたか。いい目をしている 命を否定も肯定もしない。そんな目だ 愛しのカシムに比べれば見劣りするがそれでも獲物は美しい目をしていた。 思わず哄笑が漏れた。 だが、まだ熟れていない。まだ矛盾を孕んでいる 一貫性がたりない。人間の弱さを捨てきれずにいる 弱い奴にたかられ、ぬるま湯につかって迷っている者の目だ そんな奴を鎖から解き放ってやるにはどうすればいい? 簡単さ。殺すんだよ。奴を堕落させている者をな そうして出来上がった者を俺が殺すのはなかなかいい 獲物を狙う捕食者の嗅覚か。どうすれば一番美味しく目の前の獲物をいただけるか嗅ぎ分けていく。 よってここでの襲撃は中止。情報が足りない。 今はまだ奴を腐らせているものの正体はわからなかった。 だからしばらくはトラブルの一つや二つ望みつつ、面白くもなんともない情報収集。 平たく言えば後ろを気取られぬようについて歩くしかない。 だが、いずれ出来上がる獲物の目を想像してガウルンは知らずと唇を舐めた。 アキトは補給の手順を手動(今のVF-21は手足がないので通常の機体でボタンを押す方法はとれなかった)で行うと、機体から垂らした縄梯子をよじ登り支給品の袋を取り出した。 中からレトルトのボルシチと栄養ドリンクを選ぶとボルシチを温めて梯子を降り、ぐったりと機体の足もとに座り込んだ。 BDIシステムは機体の動きを脳に同調させて、文字通り手足を動かす感覚で機体を動かすシステムである。 脳が手足に信号を送る手間を省ける分だけその追従性は高い。 だが、同時に脳にかかる負担も大きかった。 人は歩いても大して疲れはしないが走ると息が切れ疲れる。 そういった疲労が体ではなく脳にかかり精神を疲弊させる。そういうシステムだった。 しかも彼はつい先ほどリミッターを解除して、精神にみならず体にも多大な負担をかけたばかりである。 ゆえに機体だけでなく今の彼もまた休息と栄養の補給を必要としていたのだ。 栄養ドリンクを一口飲む。不思議と気力が体に戻ってくるのが実感できた。 「なるほど……理想的な栄養バランスだ」 思わず成分表を確認して感嘆の声が漏れる。 そして、ボルシチをスプーンで一すくいして口に運び、 「ボルシチにはミソ・ペーストとココアパウダーは必須か……メモしておこう」 レトルトの箱に記載された隠し味の項を見て呟く。 味覚のやられた彼にとって、いくら口の中で咀嚼を繰り返しても味のほうはわからない。 だがかつては料理人だった程、料理好きな彼である。 中華中心の彼からすれば畑違いではあろうと、やはり好きなものに対する興味は尽きず。 また、そういった時間は彼に安らぎを与えていた。 やがて機体の補給は完了し、つかの間の休息を終えた彼は再び大空へと飛び立つ。 好まざる従者を連れているとは知らずに……。 【テンカワ・アキト 登場機体:YF-21(マクロスプラス) パイロット状態:やや衰弱 機体状態:両手両足喪失、全身に損傷 現在位置:C-5 第一行動方針:無敵戦艦ダイに帰還 第二行動方針:ユリカを護る(そのためには自分が犠牲になってもかまわない) 最終行動方針:ユリカを元の世界に帰す(そのためには手段は問わない) 備考:脚部はD-7市街地に落ちているので回収できたらつけられるかも(?)】 【ガウルン 搭乗機体:マスターガンダム(機動武闘伝Gガンダム) パイロット状況:疲労小、DG細胞感染、気力115 機体状況:全身に弾痕多数、胸部装甲破損、マント消失、ダメージ蓄積 DG細胞感染、損傷自動修復中、ビームナイフとヒートアックスを装備 現在位置:C-5 第一行動方針:アキトを矛盾させている元を見つけて殺す 第二行動方針:近くにいる参加者を殺す 第三行動方針:アキトを殺す 第四行動方針:皆殺し 第五行動方針:できればクルツの首を取りたい 最終行動方針:元の世界に戻って腑抜けたカシムを元に戻す 備考:九龍の頭に埋め込まれたチタン板、右足義足、癌細胞はDG細胞に同化されました 】 【初日 19 40】 BACK NEXT もしも、その時は 投下順 マイペース二人 壁に耳あり、障子に目あり 時系列順 極めて近く、限りなく遠い世界の邂逅 BACK NEXT 血に飢えた獣達の晩餐 アキト とある竜の恋の歌 ガンダムファイト ガウルン とある竜の恋の歌
https://w.atwiki.jp/srwbr2nd/pages/138.html
愛を取り戻せ ◆ZbL7QonnV. 「……まさか、ここまで辿り着く事の出来る人間が居たとは思いませんでしたの」 穏やかな微笑みを浮かべたまま、ゆっくりとした口調で蒼の少女――アルフィミィは言った。 彼女にとっては突然の招かれざる闖入者である、テンカワ・アキト。 ともすればルール違反にも受け取られかねない反則技を使って、この異空間に辿り着いた彼に向ける眼差しは、しかし何故か優しかった。 だが、それは無力な幼子を見下ろす目だ。上の立場から下を見る、絶対的な優位からの視線だった。 「頼む……っ! 第一回目の放送で、確かに“死者を生き返らせる事も可能”だと言ったはずだ! ユリカを……ユリカを救ってやってくれ! あいつは、こんな所で無惨に殺されて良い人間じゃないんだ……! 俺はどうなっても構わない! だからユリカを……!」 万に一つの望みを託して、アキトは悲痛な叫び声を上げる。 だが、それに対する少女の答えは、あくまでも無慈悲なものだった。 「それは、出来ませんの」 「な、何故だっ!?」 「一度脱落した参加者を復活させてしまっては、ゲームになりませんの。 だから、あなたの望みを叶えてあげる事は出来ませんの」 「だがっ!」 「それに、あなたは勘違いしてますの。 ご褒美を貰えるのは、あくまで殺し合いに勝ち残った最後の一人。でも、まだゲームの参加者は三十人近くも残ってますの。 もし願いを叶えたいのなら、最後の一人になるまで勝ち残らなくてはダメですの」 「っ…………!」 ゆっくりと諭されて、ようやくアキトは冷静な思考を取り戻す。 そうだった。願いを叶える事が出来るのは、この殺し合いで最後まで生き残った一人だけ。それ以外の人間は、全て殺し尽くさなくてはならないのだった。 「でも、あなたの望みは分かりましたの。もしあなたが最後の一人になった時は、ミスマル・ユリカの蘇生を約束いたしますの」 「ほ、本当か……!?」 「嘘は、つきませんの。でも……」 「でも……?」 「そのボロボロの身体で、しかも機体を失ったあなたに、最後の一人になるまで勝ち残る事が、本当に出来ると思っていますの……?」 「っ…………!」 ……わかって、いた。 YF-21を失った今、アキトは殆ど無力化されているようなものだった。 この欠陥を抱えた身体でも戦う事が出来たのは、YF-21の機体特性に拠る所が大きい。 それ以前に自分の身体が完全であったとしても、機動兵器を用いた殺し合いが行われている状況下で、生身の人間が一体何を出来ると言うのか。 決まっている。何も出来ずに殺されるだけだ。 つまり、救えない。 テンカワ・アキトは、ミスマル・ユリカを救えない。 火星の後継者を名乗る連中に、人生を狂わされたあの時と全く同じだった。 ズサッ……! 絶望に打ちひしがれて、アキトの身体が倒れ込む。 手に、足に、全く力が入らなかった。 目の前が暗くなり、耳鳴りさえも聞こえ始める。 だが、そんなアキトを見下ろす目は、その優しさを損なってはいなかった。 「……いい事を思いつきましたの」 アルフィミィの視線が、アキトから外された。 その視線が行き着く先は、キョウスケ・ナンブの愛機、アルトアイゼン。 彼女自身にも因縁の深いそれを見ながら、アルフィミィは何事かを小声で呟き始めた。 その呟きに応じる形で、ゆっくりとアルトが底無し沼のような“闇”に呑み込まれていく。 もっとも、それは僅か数秒の事だった。アルトを一旦呑み込んだ闇は、すぐにアルトを吐き出した。 ……だが、闇の中から吐き出されたアルトは、その姿を大きく変えていた。 「蒼、い……?」 「こちらの方が、あなたには似合うと思ったですの。 それに、これなら一度壊れた機体を修復した事もバレませんの。 きっと、みんな“色違いの機体を支給された人間が居る”と思うはずですの」 紅から蒼に塗り替えられた、無骨で攻撃的なその機体。傷一つ無く修復されたそれを見て、アルフィミィは満足気な表情を見せていた。 「俺に……?」 「これは取引ですの。首輪の爆破条件を追加する事と引き換えに、あなたにあの機体をプレゼントしてもいいですの」 「首輪の……爆破条件……?」 「はいですの。ボソンジャンプは、このバトルロワイアルを進行させる上で望ましくない力ですの。 もし、その力を使って会場外に逃げ出されてしまったら、こちらとしても困った事になってしまいますの。 だから特例として、首輪の爆破条件に“ボソンジャンプの使用”を追加したいと思いますの。 でも、ペナルティを課すだけでは、ちょっと不公平ですの。だから……」 「……いいだろう。その取引に応じてやる」 最後まで言わせず、アキトは少女の言葉を遮る。 そこまで聞けば十分だった。 十分過ぎる程に、良く分かっていた。 これが悪魔との取引で、そして自分は悪魔との契約書にサインするしか、他に選択肢など無いのだと。 「聞き分けの良い人は嫌いじゃないですの。それじゃあ、特別にオマケも付けておきますの」 「オマケ……?」 「お薬ですの。これを服用すれば、その身体でも三十分は普通に戦う事が出来ますの。 でも、副作用として薬の効き目が切れてから約一時間、地獄の苦しみを味わう事になってしまいますの」 「……ずいぶん、用意が良いんだな」 皮肉気な声で言いながら、アキトは薬を手に取った。白い錠剤状の薬が合計六粒、手の中にある。 「取引成立、ですの。それじゃあ機体に乗り込み次第、ランダムで会場内の何処かに転移するですの」 「……………………」 少女の弾む声を聞きながら、アキトは嫌悪に表情を歪ませる。 だが、それが少女に向けられたものなのか、それとも少女との取引に応じた自分に向けられたものなのか、アキト自身にも区別は付かなかった。 (怖かろう……) ……ああ、怖い。 死ぬ事ではない。ユリカを救えず死ぬ事を思うと、なにより怖くてたまらない。 (苦しかろう……) ……ああ、苦しい。 他人を犠牲にした上で生き返っても、ユリカは喜んだりしないだろう。 もし生き返ったユリカが全ての事実を知って嘆き哀しむ事を思えば、胸が苦しくてたまらない。 (例え鎧を纏おうと、心の弱さは守れないのだ!) ……認めるよ。俺は、弱い。 だから、こんな道しか選べなかった。そして、今も迷っている。 正義にはなれず、だけど外道にも徹しきれない、そんな中途半端な奴だよ、俺は。 だけど、それでも……。 それでも、俺は……。 「……ユリカ。きっと、俺は地獄に堕ちるだろう。 だけど……それでも、君には生きていて欲しいんだ……幸せになって欲しいんだ……。 どうか、俺の事は忘れてくれ……。 俺が傍に居なくても、君には……」 その言葉を最後に、アキトの意識は断絶する。 彼が再び目を覚ます先には、再び訪れる殺し合いの世界。 だが、一度目と違うのは、アキトの心に冷たい殺意が宿っている事だった。 ――かくして明日を見失った男は、再び殺戮の世界に舞い戻る。 【テンカワ・アキト 搭乗機体:アルトアイゼン(スーパーロボット大戦IMPACT) パイロット状態:マーダー化 機体状態:カラーリングを蒼に変更されています 現在位置:不明 第一行動方針:優勝 最終行動方針:ユリカを生き返らせる 備考:首輪の爆破条件に“ボソンジャンプの使用”が追加されました 謎の薬を六錠所持しています】 【二日目 1 30】 BACK NEXT 鍵を握る者 噛合わない歯車 投下順 死人の呪い 謀 ―tabakari― 時系列順 ・――言葉には力を与える能がある BACK NEXT 鍵を握る者 噛合わない歯車 アキト 決意と殺意 鍵を握る者 噛合わない歯車 アルフィミィ 穴が空く
https://w.atwiki.jp/srwbr2nd/pages/302.html
とある竜の恋の歌 ◆C0vluWr0so D-8市街地。二エリアに渡って広がるあまりにも巨大な街並みはひっそりと静まりかえっている。 そこに住人の影は無く、本来なら煌々と夜の街を照らすはずの街灯も暗黙を保ったまま。 閑散とした街の更に外れにある、自然の姿を人工的に残した野外公園に巨人の影が一つ。 巨人の足下には依頼主を亡くしたネゴシエイターが一人。 ネゴシエイターの足下には物言わぬ骸が一つ。 その側には、巨人――騎士鳳牙によって掘られた穴が一つ。 ネゴシエイター、ロジャー・スミスは今は亡き依頼主、リリーナ・ドーリアンの亡骸を前に立ちつくしていた。 彼女を埋葬すべく、自らの怪我の処置もほどほどに鳳牙を走らせたロジャー。 彼の胸中にあるものは悔い。自分の至らなさのせいで依頼主をむざむざと死なせてしまったことに対する後悔の念。 もしも自分が最初の接触の時点でテッカマンエビルを名乗る男を倒せていれば―― もしも自分が即座にテッカマンエビルとリリーナ嬢を発見し、少女を救出出来ていれば―― いくら悔やんでも悔やみきれない気持ちはいくらでも募ってきた。 しかし、それで歩みを止めるわけにはいかないということも重々承知している。 「リリーナ嬢。貴女の遺志はこのロジャー・スミスが引き継ごう」 一張羅が血で濡れることも気にせず、ロジャーは少女の骸を抱き上げる。 あれほどまでに凛々しい目を持ち、気高き矜持を最後まで貫いた女性をこのままの姿で晒すことはロジャーのプライドが許さなかった。 リリーナの遺体を抱き上げた瞬間、骨折の激痛がロジャーの脇腹に走る。 本来ならば即座に治療をし、安静を保たなければいけないような重傷の身。 それでもネゴシエイターは揺るがず、堂々と胸を張り少女を抱きかかえる。 「なに――気にすることはない。依頼主死すとも依頼は死なず。ネゴシエイター、ロジャー・スミスのささやかな矜持だ」 鳳牙によって穿たれた墓穴へとリリーナの骸を丁寧に下ろしたロジャーは、少女の首にはめられた首輪をそっと抜き取った。 今現在、ロジャー達反主催を掲げる者にとって一番のネックは各々の首に巻かれた首輪だ。 この首輪が殺傷能力を持ち、あの化け物の思い通りにその効果を発揮するというのは明らかだった。 ロジャーは思い出す。 胸糞が悪くなるほどに素敵なこのゲームの参加者、その全てが集められた最初の部屋の光景を。あそこで行われた凄惨な殺戮を。 自分たちがこのままあの化け物に挑もうとも、あの悪趣味なショーと同じ光景が主催者に歯向かう無謀な反逆者の首の数だけ行われるだけだろう。 だが、この首輪さえ外せば条件はイーブンだ。 たとえあの人外の化け物が如何に強力な力を備えていようとも、お互いが対等な立場にさえ立ってしまえばいくらでもやりようはある。 そのためのネゴシエイション、そのためのネゴシエイターだ。 この首輪が主催者打倒の切り札になる――そう確信し、懐に収める。 「リリーナ嬢……。私は、貴女のような気高く美しい女性に出会えたことをとても嬉しく思う」 少女の言葉はネゴシエイターとしての誇りを思い出させてくれた。 夢物語ではあったが、少女の語る理想は夢を信じるに値するものだった。 リリーナとの出会いは、交わした言葉の一つ一つはロジャーの心に深く刻まれている。 最後に死者への祈りを捧げ、ロジャーは墓から背を向ける。 そのまま鳳牙へと乗り込むと、今度は少女の亡骸を埋め始めた。 「だからこそ――この殺し合いに乗った者は許せない。貴女の信念に反することになろうとも、交渉に値しない輩はこの拳をお見舞いしてやるのが私の主義でね」 リリーナの身体が土中に埋もれていく。 埋葬される少女の表情は、自分が死んだということさえ理解していないかのように穏やかだった。 おそらく痛みも何も感じることなく逝ったのだろう。それだけがせめてもの救いだと言うのは、死者に対してあまりにも失礼だろうか。 少女の埋葬を終え、ロジャーは墓標代わりに白石を置く。 「私は死者に縛られるわけにはいかない。君の説いた理想を叶えるためにも、そしてなにより生き残るためにだ。 君とはここでお別れだ。ロジャー・スミスはリリーナ・ドーリアンの遺志を引き継ごう。 だが君との繋がりはここに置いていく」 止まるわけにはいかない――そう決めた。 少女の死を思い返し、感傷に浸る暇は無い。そんな時間が有るのなら、その分一人でも多くの命を救い、前へ進み続けよう。 この無意味な争いを止めることが、完全平和主義を説いた少女への何よりの弔いなのだから。 これからの方針を考えながら、ロジャーは鳳牙を走らせる。 この傷の処置をすませた後、一度ユリカ嬢のところへ戻ろう。 彼女の乗る巨大な機体ならば、もしかするとこの首輪を解析する機材が備えられているかもしれない。 主催者に生殺与奪の権利を握られている以上、このままでは表立っての反抗は出来ない。 あのテッカマンとか名乗った男も、手応えはあった。 おそらく相応の痛手は負わせられたはずだ。なにより生身のままではそう遠くまではいけないはず。 ひとまずは仲間を集め、それぞれの身の安全の確保、そしてあの怪物を打ち倒すだけの戦力の充実を図ることが先決だ。 6時間の間に出た死者――それを殺した殺戮者たちも、徒党を組み、十分な戦力を揃えた集団には手を出せないだろう。 ある程度の方針が見えてきたとき、薬局の看板が目に入ってきた。 これは幸運と機体から降り、ロジャーは店内へと入っていく。 様々な薬の並ぶ商品棚を一つ一つ物色し、鎮痛薬や包帯、ギプスなど目当ての物を手に取ると、早速手当てを始める。 「しかし、これはまた派手にやられたな」 骨折数カ所に全身打撲、この場にあの無愛想な少女がいれば、『ロジャー、あなたって本当に――』と小言の一つでも言うだろう、と想像しながら苦笑する。 そうだ、自分はあの世界へ再び帰らなければならない。 手早く怪我の処置を終えると、ネゴシエイターは立ち上がる。 目指すは巨竜、無敵戦艦ダイだ。 「さぁ行こうか騎士・鳳牙。この争い――終わらせるぞ!」 ◇ 一転、巨竜、無敵戦艦ダイの持ち主であるミスマル・ユリカは怯えていた。 ここに来てからの仲間の名は放送で呼ばれることはなく、密かに恐れていた想い人の名もまた、呼ばれることは無かった。 しかしそれでも――このバトルロワイアルという過酷な状況は、彼女の精神を磨り減らすのに十分だった。 死者が出ないと、そう思っていたわけではない。こんな状況で……誰も彼も仲良く手を取り合ってなどということは出来ない。有り得ない。 そう、頭の中では分かっていた。……頭の中では。 だが実際にこの場で様々な人間と出会い――そして戦い――そして死んでいくこの現状。 ただ、怖かった。 彼女に戦闘経験が無いわけでも、人が死ぬときに立ち会ったことがないわけでもない。 戦艦ナデシコの艦長として多くの戦闘をこなし、ときには苦渋の決断をしなければならないときもあった。 でもそれは、そばに『あの人』がいたから。 だから彼女はどんなときでも潰れずに立ち上がり、打ち勝ってきた。 それほどユリカにとって、『あの人』の存在は大きかった。 「アキト……」 思わず口に出てしまう想い人の名前。 「アキト……」 一度口にしてしまうと、それはいつまでも止まることなく出てくる。 「アキト……アキト……アキト……」 いつの間にか少女の瞳には大粒の涙が浮かんでいた。 もう一度、彼に……テンカワ・アキトに会いたい。 このまま死んでしまうなんて嫌だ。離ればなれのまま死んでしまうのなんて嫌だ。 二人でいつまでも暮らすって……その夢を叶えぬままに死んでしまうのなんて嫌だ。 だから……だから! その時少女はこちらに接近してくる機影に気づく。 敵襲かと身構えたが……違った。それは別れた仲間の機体だった。 既にその四肢は失く――しかしそれでもユリカを守った仲間。 ガイと名乗るあの人は、どことなく『あの人』に似ている。 『アキト』――なの? そう問いかけたかったが、ぐっと堪える。 なんとなくだが――それは、聞いてはいけないことのような気がした。 だからその代わりに、たった一言だけ告げる。 「お帰りなさい……ガイさん」 「……ああ、……ただいま、ユリカ」 四肢をもがれたバルキリーはダイの元へと帰還する。 過去を捨てた男は過去の少女と再会し、幸せな未来を夢見る少女は未来の想い人と出会う。 それは本来有り得ない邂逅。だからこれは――このバトルロワイアルの中で起きた、とても貴重な幸せの瞬間だった。 ◇ ユリカとアキトが再会してから遅れること数分。 ユリカを目指して北上していたネゴシエイター、ロジャー・スミスもまた、二人との合流を果たしていた。 三人は別れてからこれまでの経緯とこれからの方針について話し合う。 もちろん三人とも最終目標は主催者を倒し、生きてこの空間から脱出、元の世界に帰ること。 しかし、ロジャーがテッカマンエビルとの戦闘について話し始めたとき、ユリカが小さな悲鳴を上げた。 「そっ、そんな……! そしたらあたしは……! いやっ……いやああああ!」 「ユリカ嬢、どうした!? まず落ち着いて、それからゆっくり話してくれ」 「ユリカ、大丈夫だ。落ち着いてくれ。……俺たちがいない間に、何かあったのか?」 二人がなだめてる内に徐々に平静を取り戻したユリカは、自分の所業をぽつりぽつりと話し始めた。 その声は震えていて、その口調は怯えていて、その瞳は涙に濡れていた。 「……二人が行ってから……あたしは一人で待っていました」 「放送が始まって……リリーナさんが死んだって……!」 「そのほんの数時間前まで、あたしたちは話していて、会話をしていて……」 「それだけじゃない。他にもたくさんの人が死んでしまって」 「だからあたしは怖くて……」 ふとユリカの唇が動きを止める。一度の逡巡。それを……自らの行いを認め、吐き出すまでに少女はいくらの勇気を支払わなければいけないのか。 それでも逃げるわけにはいかない。 自分のしたことに対して責任を持てるのは自分だけだ。他の誰も肩代わりなんかしてはくれない。 そのことを分かっているからこそ、ユリカは自分の句の続きを紡ぐ。 「……人がいました。その人は何にも乗っていなくて……」 「でもあたしは怖かったんです。ロジャーさんの戦ったあの人……もしあの人なら自分は何も出来ないって。 何も出来ずにただ死んでしまうと、そう思ったんです。でも……それは違った」 実際――ユリカが攻撃を行った相手はただの少女だった。 戦闘により使い物にならなくなった乗機から降り、助けを求めていたソシエ・ハイム。 もちろん生身で巨大ロボットと戦うことなど出来はしない。 それでもユリカが感じる恐怖は凶悪な殺戮者、テッカマンエビルから受けるものとなんら変わりないものだ。 だから―― 「……あたしは、相手を殺す気で撃ち続けました。ここの上で、無尽蔵に補給されるミサイルを撃ち続けたんです!」 ロジャーとアキトは絶句するしかなかった。 そう言われれば周りの建築物は自分たちがここを離れたときより徹底的に破壊されている。 高くそびえ立っていたはずのビルは影もなく、一面が瓦礫の焼け野原となっていた。 相手が生身の人間ならば――生きてはいまい。 そして、人を殺したという事実はユリカに重くのしかかる。 「あたしは……無関係の人間を……無抵抗の人間を殺してしまったんです……!」 気づけばユリカは泣きじゃくっていた。 誰がこの少女を責めることが出来るだろうか。 少女はただ脅え、恐がり、その力を向けてしまっただけなのだから。 だが、だからこそユリカは自分の行いを許せなかった。 ユリカの目的はここからの脱出。それは一人でも多くの人間と共に行われなければならない。 それなのに、自分は人を殺してしまった。命を……散らしてしまったのだ。 本当に自分はその目的を叶えることが出来るのか? 人を救うどころか殺してしまった自分が……。 「ユリカ。確かに君のしてしまったことは決して良いことではなかったかもしれない」 そんなユリカの耳に入ってきたのはアキトの声だった。 「だが……君はそれを受け入れ、乗り越えなければならない」 「でも……あたしは……!」 「しっかりしろ! 君はそんなに弱気だったか? 臆病だったか?」 「ガイ……さん……?」 「君は強い人間だ。どんなに辛いことがあっても……それを乗り越え、更なる強さを手に入れることが出来る人間だ」 「……あたしが……強い人間?」 「そうだ。少なくとも……俺が見たミスマル・ユリカはそうだった」 「……ガイさんに何が分かるんですかっ! ほんの数時間一緒にいただけのあなたにっ!」 「確かに会ったばかりの俺が言うことじゃない。だが、少なくとも俺と出会ったときの君はそうじゃなかった。 明るくて……こちらが眩しささえ感じるほどだった。それが本来の君なんだろう?」 「……。でも」 「まぁまぁ、二人とも落ち着いてくれ。ユリカ君の言う人間だって、まだ死んだと決まったわけじゃない。 一度、探索してみることを提案しよう。もしかするとまだ生きているかもしれない」 ユリカとアキト、二人の会話に割って入ってきたのはロジャーの提案だった。 まだその人間が死んだと決まったわけではない。生きている可能性があるのならそれに賭けるべきだ――とネゴシエイターは主張。 確かにそれも一理あると、ユリカとアキトも賛同する。 「それでは私とガイ君の二人で探索を開始しよう。と、その前にユリカ君に一つ頼み事がある」 「え……。はい、なんでしょう?」 「ここに首輪が一つある。……リリーナ嬢の首に巻かれていた物だ。これを君に託そう。 見たところ、ダイは戦艦というよりもむしろ移動基地としての側面の方が強いようだ。 ならば機体の整備、ひいては開発のための設備を内蔵している可能性が高い。 後は――分かるね?」 「……はい。私にどこまで出来るかは分かりませんが……やれるだけのことはやってみます」 ロジャーはユリカへと首輪を渡す。その後、早速ロジャーとアキトが市街の探索を始めたのだが―― 「どうだガイ君? その脚部はまだ使用可能かね?」 「いや……どうやら爆撃の直撃を受けたようだ。修理するより新しく造り直したほうが早い、といった状態だな」 「そうか……こちらにあった機体も使えそうにない。どうやら収穫は殆ど無いとみてよさそうだ」 ダイの爆撃を受けた市街地のダメージは予想以上のものであり、YF-21の脚部やドスハード(これは元々運用不可だったが)など、戦力面の補充は期待出来そうになかった。 生存者の発見も絶望的かと思われたその時、ロジャーが地中へと繋がる穴を発見。 どうやら地下通路の類らしい。もしもこの穴ぐらの中へ入り込み、爆撃を避けることが出来たならば。 「たとえ生身でも生きている可能性はある――ということか」 「そういうことになるね。しかも――この通路、機動兵器が通った後がある。もしかするとその機体の持ち主に保護されたのかもしれない」 「その可能性もあるな。それで、どうするつもりだ? この奥へと探索範囲を広げるのか?」 「そうしたいところだが、この通路は少々狭すぎる。 私の鳳牙ではどう見ても通れそうにないし、ガイ君の機体でも難しいだろうな。せめて脚部が無事ならまだやりようもあったろうが、この狭い穴ぐらの中を戦闘機が飛ぶというのもナンセンスな話だろう」 「するとこの通路の探索は諦めると?」 「おっと、そうは言っていないよ。確かに機体のままならば通れない――だが、この身一つで飛び込むには十分な広さだ。機体から降り、私が調べてこよう。 なに、心配することは無い。この周辺と機動兵器の痕跡を確認する程度に留めるつもりだ。 それと……彼女を一人には出来ない。君はここへ残って周辺の警戒を頼む」 「……了解した。ユリカ聞こえたか? 今から俺がそちらへ戻る。ロジャーはこのまま地下通路の探索を続行だ」 ユリカから了解の返事が届くと、ロジャーはアキトへのプライベート回線に切り替えた。 「……ガイ君。私が言うのもなんだが、君がユリカ嬢に会ったのはここに来てからではないな? 君はユリカ嬢とは同じ世界の人間で……しかもかなり親しい間柄と見た。彼女は君の素性を知らないのかい?」 「……俺はユリカとはここで初めて出会った」 「いーや、嘘だね。これでも私はネゴシエイターだ。下手な嘘で騙そうとしても無駄だよ」 「……貴様には関係ない。これは……俺だけの問題だ」 「……そうか。なに、そう言うのなら無理に聞く気はない。少なくとも私よりは君のほうが彼女のなだめ役に向いていると分かっただけでも十分だよ……っと」 やれやれ、一方的に切られてしまったか……と、ロジャーは無愛想な仲間の行いに苦笑した。 (確かに彼ら――というより彼個人か? 深い問題があるようだ。それがこれから先、悪い方向に転がらなければ良いが……) 「しかしこのような問題は他人が立ち入ったところで良くなるようなものでもない――先ほどは少しばかり余計な口出しだったかな?」 と、ネゴシエイターは自分の言動を省みる。 一呼吸置いた後、ロジャーは鳳牙から降り、地下通路の探索を開始した。 ◇ 首輪を託されたはいいが、機器の扱いに関しては素人であるユリカがどうこう出来る物ではなく。 ラボに置かれていた研究器具も、彼女の世界とは違う科学体系に因るものだったこともあり、下手に触れば爆発する可能性を秘めている首輪の解析は、挑戦さえも出来なかった。 ダイの操艦部へと戻り、首輪の表面をなでる。あまり心地よい感触では無い。 半分機械、半分生き物、とでも言えばいいのかは分からないが、とにかく冷たい無機質な感触も、温かみのある生き物のそれとも違う不思議な感触は、ユリカが初めて見る物質によるものだった。 紅い宝石のようなものが埋め込まれ、一見装飾品のように見えないこともない。 だが、ぴったりと首に吸い付くように巻かれている首輪には、それをつけるとき必ず必要なはずの繋ぎ目が見あたらない。 「不思議だなぁ……。どうやってつけたんだろ? やっぱりこのナマモノっぽいところが伸縮したりしちゃうのかな?」 ユリカの疑問も募るばかり。 と、それまで聞き流していた通信から自分の名前が聞こえてきた。 「……ユリカ聞こえたか? 今から俺がそちらへ戻る。ロジャーはこのまま地下通路の探索を続行だ」 「えっ、あっ、はい。ロジャーさんは地下通路、ガイさんがこちらに戻るですね。了解しました」 地下通路についてなど把握出来てないこともあったがとりあえずは了解の返事を送る。 モニターにはこちらへと飛んでくるガイ機の姿が映っていた。 ◆ 「えっと……ガイさん、その……先ほどはあたしも少し取り乱していたというか……」 探索から戻ってきたアキトとの沈黙の時間……それに耐えられなくなったユリカの口から出たのは、先ほどの無礼に対する謝罪の言葉だった。 「……いや、気にすることはない。さっきは俺も少々感情的になりすぎた」 それに対するアキトの返答も、思いはユリカのそれと同じ。 「……はい! でも、やっぱりこういうのは言っておかなきゃいけませんよね。 改めて……すいませんでした、ガイさん。あたしも……二人がいない間に、考えたんです。 ああ、ガイさんの言う通りかもしれない……って。普段のあたしはどんなんだったかなーとか。 こんなとき……どうしてたかなー、とか」 だいぶ普段の調子を取り戻しつつあるユリカに安心し、アキトも会話を続ける。 「いつもの調子に戻ってきてるみたいだな。安心したよ」 「あ……」 「どうしたんだ?」 「いえ、その……ガイさんって、あたしの大切な人に……似てるんです。 なんでかなー? 口調や雰囲気なんかは全然違うんですけど……。時折見せてくれる優しさ? みたいなのが」 「それは光栄だな。その彼について……少し話してくれないか?」 「えっ、いいんですか? えっとぉ……、彼、アキトっていうんです。 小さいときからの運命の恋人っていうか……。アキトはかっこよくて優しくて…… たまーに優柔不断なところもあるんですけど、それも彼の優しさだろうし…… 何より、あたしのこと……大切にしてくれるんです。それが……一番好きなとこかな?」 アキトはフ、と微笑むとユリカに対して問いかける。 「一つだけ聞こう。君は今……幸せかい?」 その問いに込められた思いに気づくことなくユリカは即答する。 「はい! あたしは……とっても幸せです!」 その返事を聞いてアキトはどこか悲しげに、しかしユリカの幸せを祝福し、軽く頷いた。 「そうか……きっと、そのアキトって奴も……幸せだと思うよ」 「はい、アキトもあたしも幸せです! だって二人は愛し合ってるんだから! ……って、なんだかあたしのおのろけ話になっちゃってるような……」 「フフ……確かにそうだな」 忘れていた幸せの瞬間――アキトは今まで失ってしまっていた感情と、それにすぐに順応してしまった自分に驚いていた。 あの頃の自分はこうして笑っていたなと、もう思い出の中にしか存在しない自分の姿を思い出す。 このままユリカとずっと二人で……ふとそんな考えが頭に浮かんだとき。 それは叶わない夢だということをアキトは知る。 「ガイさんにはいないんですか? 大切な……人」 たとえ今会話をしている相手があの頃のユリカだったとしても。 変わらぬ笑顔がこちらに向けられていたとしても。 自分は変わってしまった。 今の自分はユリカの愛したテンカワ・アキトではない。 過去を捨てた……復讐鬼なのだ。 「ああ、……いたよ」 「あっ、やっぱり! ガイさんって一見無愛想だけど実は優しいですもんね。女の子なら放っておきませんよぉ!」 「いた。だが……もういない」 「……! す、すいません……あたし……」 「君が謝ることはない。……少し周辺を見てこよう。ロジャーの話ではまだ近くにテッカマンと名乗る好戦的人物が潜伏しているらしい。 君はその間に休んでおくといい。何かあったらすぐ連絡するように……分かったね?」 「……はい、分かりました。……ガイさん、最後に一つだけ……聞いてもいいですか?」 「……なんだ?」 「あなたは……」 あなたは……。そこから先の言葉が続かない。聞きたいことは、言いたいことは頭の中ではしっかりと文章を作っている。 『あなたは……アキトなの?』 たったそれだけの言葉が言えない。 たった五文字。でもそれを言うことは他の言葉を百述べることよりも、千紡ぐことよりも難しかった。 言葉が続かない。 ユリカの口唇は半端に開かれたまま何の音も発することは出来なかった。 「……いえ、何でもありません。気をつけて行って来てください」 「……ああ」 バルキリーは夜空を切り裂き羽ばたいていった。 ユリカは思う。 自分が聞けないのは……もしかしたら心の奥底でそれを認めているからではないかと。 今までアキトのことを誰よりも見てきた自分だからこそ分かる。 やっぱりガイさんは……アキトだ。 何であんな格好をしているのか分からない。ユリカの知るアキトとは雰囲気だって全く違う。 それでも自分の全感覚は彼がアキトなんだと言っていた。 「今度ガイさんが帰ってきたら……その時こそ絶対聞こう」 少女はそう決心するとずっと張りつめていた緊張の糸をほぐす。 思えば夕方戦闘になってからずっと緊張しっ放しだ。 んー、と背伸びをしてから、どっかりと椅子に座り込む。 深く椅子にもたれながらユリカはじわじわと迫ってくる睡魔の存在に気がついた。 あっ、ダメ……今寝ちゃったら……でも……ちょっとくらいなら……。 気づけば少女はすうすうと寝息をたてはじめていた。 「……ユリカ君? 聞こえているか?」 探索を終えたロジャーからの通信も、眠れる少女の耳には届かない。 ロジャーが行った探索の結果は、決して芳しいものではなかった。 生身での移動ということもあり、探索範囲が酷く狭かったことも原因の一つ。 例の機動兵器の移動跡についても、地下通路を通れるサイズの機体であることくらいしか分からなかった。 ……いや、もう一つある。 地下通路の中には、人為的に押し広げられちょうど人が通れるようなサイズの亀裂があり、そこには金色の装甲片が付着していた。 おそらくはその機動兵器が亀裂を広げた時に剥がれた物だろうが……金色をパーソナルカラーとするパイロットなど存在するのだろうか? その機体の持ち主はよっぽど派手好きだったのだろう。 「よほどのセンスの持ち主と見える。一度お会いしてみたいものだ」 と、黒で全身を覆うネゴシエイターは肩をすくめる。もしこの場にあの少女がいたならば、『ロジャー、貴方のセンスもよっぽどだわ』などと言ってくれたろうに。 「しかしガイ君といいユリカ君といい、どうしてこう協調性に欠ける人間ばかり揃っているのか……まさかそれがこの場に呼ばれた理由ではあるまいが」 と、いまいち歩調の合わない仲間に対してロジャーは苦笑する。 思えばこの馬鹿げた殺し合いが始まってから既に半日が過ぎようとしている。 その間出会った者たちはどれもこれも一筋縄ではいかないくせ者ぞろい。 しかし不思議なのはその殆どが戦闘技術に長けた者であるということ。 (これはなぜだ? あの怪物はなぜ私たちを選んだ?) 相手の目的を知り、それに見合った行動をとることがネゴシエイトの鉄則である。 この首輪を解除し対等な立場に立ったとき、肝心のネゴシエイトに失敗しては元も子もない。 怪物の情報――それもまた必要だった。 「為すべきことは多い。まったく先が思いやられるね」 まぁ今は――何処かへ行った王子の代わりに眠り姫のお供というのも悪くはないな、と鳳牙はダイに寄り添うようにその身を座らせた。 ◇ 夜闇に紛れ、ダイの動向を見張る機体が一つ。黒と赤のカラーリングが施されたそれは、獲物を見つけ、喜びに奮えていた。 「そうか……。アレがお前を堕落させているモノかい?」 ククク、とガウルンは嗤う。その目は燦々と輝き、唇は醜く歪んでいる。 まるで子供が念願のおもちゃを買ってもらったかのような喜びの顔を見せ舌なめずりをする格好は、彼の愛する軍曹に言わせれば三流の為すこと。 確かにガウルンは兵士としては三流と評されるかもしれない。だが、それはあくまで"兵士"としてだ。 こと戦闘だけに限定して言えばガウルンは超がつくほどの一流なのは間違いない。 そして超一流の戦闘狂が駆るのは、超一流の武闘家、東方不敗マスターアジアの愛機であるマスターガンダム。 俊敏なその動きなら、鈍重なトカゲの一匹、即座に喰うことが出来るだろう。 「フフフ……さぁて、楽しいパーティの始まりはもうすぐだ。楽しみだねぇ……実に楽しみだ」 まだダイに手は出さない。アレを壊すのは――アイツが帰ってきてからだ。 自分と同類のあの男は、目の前でアレを壊された時どんな顔をするだろう? 決まっている。 この上なく上等な憎しみの目をこちらに向け、火がつくような憎悪を滾らせ――アイツはきっと、自分を殺しに来るだろう。 「焦るなよ、ガウルン。お楽しみはこれからだ。あの男を徹底的に壊すチャンス――それを待て。 何、それはそう遠くない。腹を空かせてメシを待てば、いつもより美味しく頂ける理屈だぜ。 ……まぁ、あれだけ旨そうな獲物だ。すぐに頂くのも悪くはねぇなぁ」 ククク……、と狂人は再度嗤う。 【ロジャー・スミス 搭乗機体:騎士凰牙(GEAR戦士電童) パイロット状態:体力消耗、肋骨数か所骨折、全身に打撲多数 機体状態:左腕喪失、右の角喪失、右足にダメージ(タービン回転不可能) 側面モニターにヒビ、EN90% 現在位置:D-7補給ポイント 第一行動方針:アキトの帰還を待つ 第二行動方針:ゲームに乗っていない参加者を集める 第三行動方針:首輪解除に対して動き始める 第四行動方針:ノイ・レジセイアの情報を集める 最終行動方針:依頼の遂行(ネゴシエイトに値しない相手は拳で解決、でも出来る限りは平和的に交渉) 備考1:凰牙は通常の補給ポイントではEN回復不可能。EN回復はヴァルハラのハイパーデンドーデンチでのみ可能 備考2:念のためハイパーデンドー電池二本(補給一回分)携帯 備考3:ワイヤーフック内臓の腕時計型通信機を所持】 【ミスマル・ユリカ 搭乗機体:無敵戦艦ダイ(ゲッターロボ!) パイロット状態:浅い眠り、精神的にはやや不安定なまま 機体状態:大砲一門破損、左前足損傷、腹部装甲損壊 現在位置:D-7補給施設 第一行動方針:眠……あふ…… 第二行動方針:ガイに自分の疑問をぶつける 第三行動方針:ガイの顔を見たい 第四行動方針:首輪解除が出来る人間を探す 最終行動方針:ゲームからの脱出 備考1:YF-21のパイロットがアキトだと知りませんが、ある程度確信を持っています アキトの名前はガイだと思っていますが若干の疑問もあります 備考2:ハイパーデンドー電池8本(補給4回分)回収 備考3:首輪(リリーナ)を所持】 【テンカワ・アキト 登場機体:YF-21(マクロスプラス) パイロット状態:やや衰弱 機体状態:両手両足喪失、全身に損傷 現在位置:D-7西部 第一行動方針:市街地周辺の探索 第二行動方針:ユリカを護る(そのためには自分が犠牲になってもかまわない) 最終行動方針:ユリカを元の世界に帰す(そのためには手段は問わない)】 【ガウルン 搭乗機体:マスターガンダム(機動武闘伝Gガンダム) パイロット状況:疲労小、DG細胞感染、気力120 機体状況:全身に弾痕多数、胸部装甲破損、マント消失、ダメージ蓄積 DG細胞感染、損傷自動修復中、ビームナイフとヒートアックスを装備 現在位置:D-7 第一行動方針:アキトの目の前でダイを壊す 第二行動方針:近くにいる参加者を殺す 第三行動方針:アキトを殺す 第四行動方針:皆殺し 第五行動方針:できればクルツの首を取りたい 最終行動方針:元の世界に戻って腑抜けたカシムを元に戻す 備考:九龍の頭に埋め込まれたチタン板、右足義足、癌細胞はDG細胞に同化されました 】 【初日 22 00】 本編111話 とある竜の恋の歌
https://w.atwiki.jp/srwbr2nd/pages/110.html
巨虫、岩を打ち抜いて ◆vBGK6VSBWM 第一回放送が始まる時間まであと五分といった時間まで差し迫る。 その時、孫光龍は未だ平穏の中に身を置いていた。 本日二杯目のコーヒーを用意する。ペースが多少早いかもしれないがそれも仕方がない。 自分で決めたこととはいえ、娯楽のない休憩という物は退屈なのだ。 それゆえ、嗜好品に手を伸ばす。 「しかし、エスプレッソばかりというのもねえ。 ミルクぐらい用意したら良い物を。気が利かないなぁ。」 どうせ主催者にはこちらの声は筒抜けなのだろう。 そんなことを思いつつ愚痴りながら、カップを口元に寄せる。 『アー、アー、ただいまマイクのテスト中ですの。…こほん…最初の定時連絡の時間となったので放送を 始めますの。まずは死んでしまった人たちの報告からですの…』 「放送が始まった・・・か。それにしても無粋な主催者だ。」 いざ、飲もうという時に流れ出した放送に少し不機嫌な素振りを見せながらカップを手元に置く。 『以上、10名ですの。…なかなか順調ですの。でも、乗らない方もいますのでやる気を出してもらうために ご褒美のことを説明いたしますの。ご褒美は、死んでしまった方を生き返らすことから世界の改変まで 望むがままですの。なので、みなさんちゃきちゃき頑張って欲しいですの』 「ギム・ギンガナム。僕をコケにしてくれただけはある。簡単には落ちないな そういえばあのミサイルに乗った男、シャアと呼ばれてたかな・・・ あいつも生き残っているのか。フフッ、逃げ足だけは早いようだったからね。」 光龍には序盤で死んだ小者達に対する哀悼などなかった。 そして優勝のご褒美にも。それに釣られて、功に焦り戦闘で死んでしまっては元も子も無い。 あくまで保守的に、最終的に生き延びられればそれでいいのだ。 彼にとって、今興味があるのは自分をコケにしたギンガナムという男と生き延びる事、その二つだった。 ―それにしても禁止エリアは何処になるかな。まさか、ここになるなんて事は・・・ ハハッ、そうなったら流石に出来すぎている。嫌がらせかなにかだ。 コーヒーを飲みそんなことを思っているうちにも、放送はなお続く。 『………………今から二時間後にA-8と D-4は進入禁止となりますの。 進入すると首輪が起動するので注意することですの』 「ブッ!ゲッ、ゲホゲホッ!」 こう予想通りの展開では咳き込み、コーヒーを噴出すのも仕方が無い。 盛大に光龍の口から吹き出たコーヒーは霧状で、幸い彼の白いスーツを殆ど汚す事は無かった。 ああ、それにしてもここに陽光が射していさえすれば見事な虹が観賞できただろう。 「のうのうと傍観しながら優勝させてくれるとは思っては居なかったけれど、まさか本当にここを指定するなんて。」 事態は一転して、早急を有することとなった。 数分間か、ハイパー化以外の脱出方法を考えてみたがやはり良い案は思いつかない。 「コーヒーをインスピレーションの源なんて言ったのは誰だったかな。全く役に立たないじゃないか。」 かくして、光龍はハイパー化による脱出を余儀なくされることとなった。 だが不安は残る。光龍もこのハイパー化というのが完全無欠ではないことを重々承知しているからだ。 「ギンガナムとの戦闘でオーラバリアが展開できなかったのも、 制御できなかったからじゃなくて単に機体に負担を強いるからかもしれないな。」 光龍は少し勘違いをしていた。 ハイパー化は実際にはAB自体が巨大化するのではなく オーラバリアが実体化して膨れ上がり、ABが巨大化したかのように見える現象である。 厳密にいえば、あの戦闘でオーラバリアが展開できなかったのではなく、最初から実体化した形で展開はされていたのだ。 「どちらにしても外に出たら、まずはG-6でレプラカーンを点検しなくちゃ。それもハイパー化が無事に済んだらだけどね。」 光龍は一時間の間に回復した念を注ぎ込むイメージでハイパー化を試みる。 ―うまくいけば、制御できる程度に巨大化出来るはず・・・ レプラカーンは光龍からゆっくりと注がれる念を纏い、徐々に巨大化を始める。 AB一体が丁度収まる程度だった穴も次第に窮屈になる。 「そろそろ、頃合だね。」 レプラカーンの腕が穴を覆っていた大岩を砕く。 大きな音をたてて崩れるが幸いにも周囲には誰も居なかった。 「僕は運が良い。周りに誰も居ないじゃないか。それに暴走もしなかったしね。」 光龍は余裕の表情を見せるが、実際は回復した分以上の念を消費している為かなり疲労している。 自滅こそしなかったものの、やはりハイパー化という特殊な状態を制御するには至らなかった。 「でも、休んでいる暇は無いか・・・」 一匹の赤い昆虫はふらふらと頼りないながらも飛んでいった。 【孫光龍 搭乗機体:レプラカーン(聖戦士ダンバイン) パイロット状態:念の使い過ぎで疲労。ギンガナム恐怖症。 機体状態:オーラキャノン一発消費、グレネード二発消費、ハイパー化の兆し在り、顔の牙消滅、左脚部切断 現在位置:A-8 第一行動方針:G-6にてレプラカーンの点検。出来ればENの補給も。 第二行動方針:ギンガナムに打ち勝つ 第三行動方針:己の力を上回る主を見つける 最終行動方針:生き残る】 【初日 18 20】 BACK NEXT キラ 投下順 類(仮面)は友(仮面)を呼ぶ 殺し合い 時系列順 騎士の美学 BACK NEXT コーヒーブレイク 孫光龍 ゲスト集いて宴は始まる
https://w.atwiki.jp/k2727324602/pages/341.html
2010年7月24日(土) ロボトピック「スーパーロボット大戦新作アニメ始動!」他 今日は何と言ってもこれですよね~。 ◆「スーパーロボット大戦OGアニメ第2段『ジ・インスペクター』始動!」 出典:今日もやられやくhttp //yunakiti.blog79.fc2.com/blog-entry-5897.html 2010・秋、満を持してOG2アニメ化!恐らく2011年のスパロボ20周年に向けた前哨戦でございましょうね。 どうやら電撃のみの速報のようで、まだ公式ページの更新は来ておりません。監督が何と大張さんとか、アニメ用の新規イラストはこれまでと大分イメージが違うとか、DWとは時系列的に繋がってるのかとか、感想やら疑問やらいろいろ渦巻いておりますが、ひとまず公式ページの開設を待ちましょう。 →翌日 昨日の件、公式が(プレですけど)来ました~。http //www.suparobo.jp/srw_lineup/srw_ogin/ しかしクリエイターサイドの方で特にスパロボを熱烈に推してくれてる大張さんはホントに有難い方ですねぇ…。
https://w.atwiki.jp/srwbr2nd/pages/249.html
戦いの矢 ◆ZqUTZ8BqI6 「ガロード、どっちに行くんだ。近道はこっちだぞ」 「え? アムロさん、C-8に行くなら、ここから南にまっすぐ……」 「それは違うんだ。この壁を抜けると反対側に出られるようになっているんだ。 ここは、上と下がつながっていると言っていたろう?」 「ああ、そう言えば……そうか、つながってるってそういうことか」 進み始めたガロードの言葉に割り込んでストレーガの指が北をさす。 そこには、白系の色を中心に、虹色の光を放つどこまでも続く壁があった。 アムロの言葉を聞いて、F-91は、急旋回。慌ててストレーガのそばまで戻ってくる。 「悪い悪い、アムロさん。俺、まさか、この壁に突っ込むのがそれなんて知らなくて」 「いや、それも無理はないさ。俺も逃げる時、半信半疑だったが光の壁に突っ込んだから知ってるんだ」 そう言ったあと、小さくアムロは歯噛みする。 過去に捕らわれていても仕方がない、と頭では割り切れるほど年は積み重ねているが、 感情まで抑えきれるほど、アムロも老成し冷めた人間になれているわけでもなかった。 あのときの戦いで、もう少し早く、あの獅子のマシンを撃破できたなら。 いや、戦力も少ないのに、行動する仲間を分割しなければ。 ……シャアは、死なずにすんでいたのかもしれない。 「何を、考えているんだ俺は……」 ストレーガの中で、アムロは一人小さくつぶやいた。 シャア・アズナブル。いけすかない部分もあったし、そりが合うはずもない男だった。 だが、不思議と自分たちは出会い、時代に翻弄されていった。 結局、自分が何をつかんだのか? ――それすらもわからないままだ。 あの男は、何かを見つけ、つかんだのだろうか。 もし、シャアが何かにたどり着いたとして…… それがあの愚行、アクシズ落としへとつながったとしたら、アムロはやはりシャアの行動を否定する。 あの男は、焦りすぎたんだ。だから、現実も見えちゃいなかったし、すぐに物事に見切りをつけた。 アムロは、シャアの行動を否定した。 だが、あの男を考えるに当たって、忘れてはいけないことがある。 「この暖かさをもった人間が、か」 シャアも、人の心の温かさを知っていたし、そのことをはっきりと認めていた。 そして、それを知った上での選択だったということ。シャアは、人のエゴと優しさを知った上で決断したのだ。 自分との決着にこだわり、過去を引きずりながらも同時に人を知り未来のために決起した男。 自分に、その勇気があるのか? いや、勇気と言うには少し違うかもしれない。 どうしようもないくらいすべてを理解して、他人を背負っていく気概、魂が自分にあるのか。 「ガロード……すこしいいか?」 光の壁を抜けて、おもむろに問いかける。 「どうやら、そのガンダムは俺たちの技術の延長にあるようだが……いつごろ作られたかわかるか?」 「うーん、ちょっと触っただけじゃ操縦法はわかっても、そこまではわかんないみたいだ。 ……そうだ、ちょっと待ってよ。色々試してみるから、さ」 いったん地上に降りるF-91を見て、アムロもゆっくり降下していく。 幸い、ここは市街地だ。高層ビル群の陰に隠れていればそうそう見つかることはない。 「そうだな、一応目的地には着いた。なにかあると聞き逃すかもしれない。放送まで聞き逃さないように移動を切り上げよう。 ……ガロード、さっき言った、最初のニュータイプの話を……少し聞かせてくれないか」 「ああ、いいよ」 軽く返事を返し、手を動かしながらガロードは説明してくれた。 酷く、哀しい人間の業そのものが詰まったような物語を。 ただ、アムロはぼんやりとそれを聴き続けた。ただ、ひたすらに聞く。 何か、理解できる気がして。 「―――で、言ったんだ。 ニュータイプは人の革新でもなければ戦争の道具でもない、ただの人間だ。それは幻想だ』って」 「そう……か……」 アムロは、それだけ言うのが限界だった。 だが、作業をするため画面に集中していたガロードは、アムロの顔色に気付かず、さらに言う。 「お、調べたら結果が出たよ。 えーっと、宇宙世紀123年、バイオ・コンピュータを利用したニュータイプ仕様……」 そこまで読み上げた後、ガロードも怒りに顔をゆがませる。 アムロは、なぜガロードが怒っているのかよく理解できた。 なんてことはない。これは、ニュータイプを戦争の道具として使うモビルスーツでしかないのだ。 ……それも、あの人の光を見せた時から30年もたった、自分たちの未来の、だ。 人は、力でメンタリティを容易に変容させる。 それこそ、急に力を手に入れた反動で、一夜にして別人同然になることもある。 逆に、己を脅かす力をもつ存在の登場によって、周囲の人々のほうが変わっていくこともある。 一人の人間が持つ力が、すべての人間の心の在り方すら捻じ曲げる。 まさに、ニュータイプがそうだった。 驚異的な力を持つと畏怖されたこともあった。逆に人間の革新ともてはやされ、尊敬されたこともあった。 お互い、人間であることに変わりはないのに。 ニュータイプは幻想である。 アムロは、そのガロードの意見を、素直に受け入れる。 だが、哀しかった。あまりにも悲しすぎた。 よく似た並行世界でも、ニュータイプは戦争の道具として扱われ、血を流す原因となった。 あの日から、30年たった自分の世界でも、何も変わっていない。 これが、『人の業』とでも言うのか。 シャアは……シャア・アズナブルはこの絶望を知っていたのだろうか。 人は、決してメビウスの輪から抜け出すことはできず、あらゆる世界、あらゆる時間で罪を重ねるのだろうか。 「……そろそろ、放送だな。そちらに集中しよう」 ガロードに言っているのか、自分に言い聞かせているのかもはっきりしない心地だった。 そう言って、ディバックから、地図とメモ、ボールペンを引っ張り出す。 時刻は、18時間が経過し、昼の12時だった戦いの開始も、今では夜更けとなっている。 最初の6時間では、10人だった。 仮に、このペースで死者が増えているとすれば、単純計算時間が倍になっている以上、死者は20人。 いや、参加者が減れば減るほど、殺し合いは減速する。それを考えれば、16,7人。 もっと少ないことを祈って、アムロは鳴り始めた音楽に耳を傾ける。 しかし、その内容はアムロの予測を上回るものだった。 「なんだって……二十……一人だと?」 あの部屋には、50人弱しかいなかった。 最初の放送で、10人が死亡。6時間経過時の残りは40人と少し。 その40と少しの人数の中で……この12時間で、21がさらに脱落した。 つまり、6時間経過時の生存者の半分が死亡したことに他ならない。 アムロは確信する。人が減っても、殺し合いは減速していない。 むしろ、減った状態でありながら時間の単純比以上の人間が落ちたことを考えると、その加速度は猛烈な勢いで増している。 呼ばれた名にはギム・ギンガナムの名もあった。 危険人物も当然返り討ちその他で減っているだろうが、 それでも、この場は殺し合いにのった人間のほうが現在優勢であることは疑いようがない。 こんな理不尽に殺し合えと言われて、それでも最後に一人になるまで殺しあってしまう人間。 この世界は、多くの世界から人が集まっている。多種多様な世界の知恵をもってしても、人は食い合うことをやめられない。 シャアの名は、覚悟していた。だから、受け止めることはできた。 しかし、放送から流れたそれ以外の情報は、どれも顔を強くゆがませるのに十分なものだった。 唯一の救いは、自分たちの合流相手、クインシィやジョナサン、そしてブンドルの名が呼ばれなかったことだ。 もう、一刻の余裕もない。 可能な限り迅速に、こちらの戦力を落とすことなく、反抗勢力を集めなければ、勝機は完全に失われる。 「ガロード……合流を急ぐぞ。うかうかしてる暇はなさそうだ」 「ああ、わかったよ。……おっさんの分まで頑張らなきゃな」 おっさん、というのは話に聞いた神隼人だろう。 だれもが、苦痛を乗り越え、消えた人々を背負って生きている……とアムロは知っている。 この世界はそれが顕著なのだ。言うならば、ここは世界を凝縮し縮めた箱庭―― 「そうか……そういうことか、これがあの化け物の目的なのか……」 アムロは、直感的に気付いた。この世界の、意味を。 ストレーガのアイ・カメラで周囲の住宅街やオフィス内を急いで探索する。 ……人のつかった痕跡が、いっさい見当たらない。 それが、アムロの予感に、さらに確信を与えてくれる。 最初から、アムロが感じていたことがある。 違和感、とも言ってもいい。この世界には……あまりにも人の思念が感じられない。 無限に広がるような感覚を与えながら、雑念というか、ごちゃごちゃしたものがなさすぎるのだ。 だから、離れた場所でもニュータイプでも何でもないギンガナムの気配を手に取るように感じることができた。 冷静に考えると、意識もせず集中もせず遠く離れたニュータイプでもない人間の思念を、つぶさに知ることができるのはある意味異常だ。 この世界に、人はいない。いなかったという過去系ではない。過去未来現在、あらゆる時間で自然には、ここに人はいない。 いるのは、連れてこられた自分たちだけだ。 不純物の混ざらない、なにもない人間の世界のジオラマに、生贄を用意することで『世界』を再現する。 自分たちをひねりつぶすだけならたやすくやってのけるような存在が、そんなことをやる目的は何か? 言うまでもない、実験だ。 不純物を取り出し計測に無駄な幅が出ないようにするのも、 小さい事象の投影から全体を予測、理解するのも、 まさに実験そのもの。 ここは、実験用のフラスコの中なのだ。 だが、ここでもひとつだけ疑問が残る。 では、彼らはこの実験を計測することで、何を知ろうというのか……? 「それこそ……人の業なのかもしれない」 あの化け物が、神だとは認めない。 しかし、神のごとき力を持っていることだけは間違いない。 さっきも言ったが、力で心は容易に変わる。 ならば。 あれほどの力を持つ存在が、人間と同質の精神を持っているだろうか。人間の心を理解できるだろうか。 ――絶対にNO。 理解できないからこそ、こんな世界を作り上げ、観察することで人間を理解し、判断しているのだろう。 そして、観察から何をしようとしているのか……? 「認められるものか……!」 アムロは、あの化け物を認めない。どんな結論を出したとしても、決して認めない。 シャアは、人間の中で生き、人間として悩み、人間として業を背負い、人間の業を知って立ち上がった。 だが、あの化け物は違う。人を超越した世界で生き、人の心を知らず、悩まず、神の如く力を振りかざす。 人は、弱く脆く、愚かなのかもしれない。それは、人を超越した種から見ても明らかかもしれない。 けれど、どれもまた、すべて人間が背負い、乗り越えるものだ。 人間でない存在に、指図されるほど落ちぶれちゃいない。人は、それでも乗り越えられるんだ……! 「――シャア。お前が見たものはこれだったんだな」 アムロは知った。 シャアが見たものは、人間の未来という希望だったのだ。 どうしようもなく居間に絶望していながら、人間という種そのものの未来は、だれよりも信じていた。 自分も、同じだ。 決して、人間を見放したしたりはない。もし、そんな存在がいるなら、全力で戦うまでだ。 「ガロード。すまないが、マシンを交換してくれないか」 「急に、黙りこくったと思ったら……どうしちゃったんだよ、アムロさん」 「F-91がニュータイプ用のマシンだと言うのなら、俺が乗ったほうがいい。そのほうが、戦力になる。 ……もうシャアのような過ちは繰り返させない。俺はただの人間だ。だから、決して人間を見放したりはしない」 シャアを失った時のような、力不足からくる過ち。 シャアが起こしたような、人の業と絶望からくる争い。 そのどちらも、もう沢山だ。 ニュータイプは万能ではない。これからも、ただの人間である自分は失敗し、悩むだろう。 それでも……それでもだ。 必ず、人はいつか乗り越えると信じ続けよう。 そして、あの化け物を討ってみせる。 マシンの交換に、ガロードは、少し渋る様子を見せたが、結局変わってくれた。 彼曰く、「人を戦争の道具にするような、ニュータイプをパーツにするようなMSには乗せられない」らしいが、 アムロも、珍しく我を通した。アムロは知りたかった。自分たちの技術の果て、ガンダムはどうなったのか。 せめて兵器は、変わっていけたのか。 シートに座りこんだとたん、頭に流れ込む操縦方法。 はっきりと感じる、サイコフレームやバイオセンサーに近い感知器の存在。 自分の認識できる世界が、一回りも二回りも広がったような感覚を覚えた。 ざらつきに似た、会場を覆う思念。覆いかぶさるような参加者たちの嘆きと慟哭といった激情の数々。 「! 来る……!」 とたん、目を向いて虚空へ視線を投げやるアムロ。その急な動きを見て、ガロードが慌てた様子を見せた。 「な、何が一体来るって言うんだよ!?」 「かなり、大きな悪意が1つ……弱いが、明らかな敵意がもう一つ」 時計を確認すれば、もう6時30分だ。 「不味い、早く合流しよう」 そこまで言った時だった。 太陽に先駆け、天空に駆け上がるように、光の線が流星のように空を切り裂いたのは。 ― ― ― ― 「おお? ハハッ、こりゃおもしれぇ」 C-1エリアの端で、黒いガンダムが、光の壁に体を突っ込んだり出したりして遊んでいる。 「しっかし面白い仕掛けだな。いまさら驚かねぇが、こんな便利なもんくわしく教えとけよ」 ずいぶんかるく、繋がっているとしか言っていなかったが、その一言で済ますとはあの譲ちゃんも人が悪い。 もっとも人じゃあないのかも知れねぇが……それはさておいて。 知っていればいろいろ楽しめたかもしれなかったってのに。 結果的にはいい感じなわけだが、やっぱりペナルティは必要だろう。 いや、やっぱり人じゃないからこそ、人間様の礼儀ってもんを教えてやる必要があるか? まあ、どっちの道…… よし、殺そう。 あまりにもナチュラルに危険思想を振りまく、この男の名はガウルン。 本名かどうかも不明で、9つの偽名を持つことからそう呼ばれる傭兵だ。 息をするように人を殺せるガウルンという男は、上機嫌で獲物を探す。 さっき戦った相手でも、盛り上がることは盛り上がったが、すっきりさっぱりとは程遠い結末だった。 だから、この微妙で半端な高揚感を抑える相手を求めて放浪する。 もっとも、彼に本当に満足が訪れるとは思えないが。 もし仮にあったとしても、どれだけ殺せば腹が膨れるやら、わからない。 「半端はいけねぇよなあ、半端は……」 さっきは、なかなかダンスにはいいお相手だったが、積極性が足りないってもんだ。 体を汚すのを嫌がる娘みたいに、傷つくのを恐れすぎていた。 最後に、腕一本持ってかせる度胸があったとしてもまだまだ欲求不満だ。 「やっぱり、なかなかおいしいモノにはありつけない……ってとこか?」 彼からすれば、禁止エリアの発表以外に放送に意味はない。 せいぜい、時報のかわりくらいだ。時報……と考えて、ふと時間が気になった。 時間を、ちらりと見ると、時計は6時26分を指している。 東の空からは、うっすらと太陽の光で白みだしている。 明るくなるということは、そろそろ、派手に動きづらい時間になる。 次の市街地あたりで、じっくりと獲物を待って狩るとするか。 ガウルンは、闇雲に動き回っているわけではない。 最初にこの会場に転送された時や、獲物――アキトのことだ――を追いかけていた時はともかくとして、 それ以外は、ガウルンは人の集まりそうな場所を中心にめぐっているのだ。 街での戦いがあった後、ガウルンは考えた。 そして、ガウルンの出した「どこに人が集まるか」というクエスチョンの答えは、ずばり「街」だった。 ビル街などは、当然食料などの物資も補充しやすく、姿を隠す場所も多い。 自分の常識などを考えれば、籠城する相手はそういった場所を選ぶ傾向が強い。 ぼんやり平地や森にいる連中は移動中に自然と見つけられる可能性もあるし、自分から出向いて探す必要もない。 だが、わざわざ探さないと獲物が見つからない点は、まわる必要がある。 それも、逃がさないように。 結果はもう知っての通り、そこに隠れていた連中を見つけては、ガウルンは楽しんでいる。 結果的には下の街から中央の街の廃墟に移動、とくれば次に進む先はもう言わずもがな。当然上の街だ。 下から上に、潜んでいそうな場所を、プレゼントボックスでもあけるつもりですべて回る。 最後は、メインディッシュに南東の工場と考えていたところだったが…… もっとも、なんのデメリットもなく上から下へワープできることが判明した以上、これはあまり得策ではなかったようだ。 まさか、つながっているとは言っていたが、こんな壁を使って下へ一瞬で移動できるとは予想外だ。 いつでもどこでも縦横無尽に逃げるというのなら、しらみつぶしにする必要はない。 よし、ここの次は工場へ向かおうと一人心に誓うガウルンだった。 少し話はそれたが、だからガウルンはA-1、B-1の街を目指した。 もっとも、厳密にはその東にある廃墟のほうが近いのだが、ガウルンに射撃の的になる趣味はない。 空を飛べないマスターガンダムが推進力を利用しながら水上を進むのは、 廃墟に潜んでいる人間から「どうぞ、殺してください」というのとまったく同義。 というわけで、ほぼ全速力で北上していたガウルンは、光の壁に出会った。 ちなみになぜ全速力かというとこれもさっきとまるきり同じ回答で、ガウルンに射撃の的になる趣味はないからだ。 大した遮蔽物もない平原で、遠距離攻撃を苦手とするマスターガンダムがゆっくり進んでいては、ただの的だ。 時速250kmは出るモビルファイターでも、優秀な射撃補正ソフトの前ではドン亀だ。 余談だが、ガウルンが極力遮蔽物の多い街や森などで戦おうとしているのは、 何かに隠れて近づかねば、相手が逃げてしまって楽しめないのに加えて、マスターガンダムが近接特化なのも大いにある。 とにかく、距離を詰めて自身も機体も得意とする近接戦闘に持ち込めば、負けないと思っているからだ。 ただ、単純に自堕落で享楽的に見えるが、その認識は間違っている。 ガウルンは自身の経験と、だれよりも狡猾で深い戦闘および戦術の判断で冷静に戦う、歴戦の戦士……いや修羅なのだ。 さて、光の壁をくぐって1番ラインの街に戻ろうと思った時だった。 太陽に先駆け、天空に駆け上がるように、光の線が流星のように空を切り裂いたのは。 「次の祭りはあそこか」 ― ― ― ― 「―――っ!」 統夜は、地面を異常な速度で疾走する影を見つけ、ビルの陰に隠れる。 銀色のマシンだ。かなり大きい。ヴァイサーガと同じくらい……60mはある。 だが、その巨体の割に、線があまりにも細い。 スレンダーな騎士タイプのヴァイサーガを、さらに細く絞ったようなマシンで、腕にはドリルが付いている。 「やっと……また見つけた」 そう言ってコクピットで統夜では息を吐く。 見つけられたことを安堵しているのか、それとも見つからなかったことを安堵しているのか。 どちらともつかない微妙な溜息。 時刻は約一時間ほど前だったろうか。 統夜は、当初の目的通り、C-7にまで来ていた。……順調とは程遠かったが。 街中に入った途端、別方向――北のほう――から、前述のマシンが現れたのだ。 自分から不意打ちを仕掛け、相手に致命傷を与えてから戦おう、とは決めていても、 咄嗟にそれが実行できるほど統夜の心も技量も追い付いていない。 突然全力疾走でこちらに向かってくるマシンを見て、統夜は姿を隠したのだ。 正面から戦うことを避けるのもあったし、純粋に統夜が見せた一般人的な反応でもあった。 とにかく、細かい理屈はいい。 統夜は、とにかく向こうが全力疾走していたのやらビル街で視界が悪いのやらこの一帯のミノフスキー粒子が濃かったやら、 もろもろの条件で統夜は接触を避けることができた。 それでも、一歩間違えれば正面から戦うはめになっただろう。 統夜も胸をなでおろしながらも、ここにきてからを思い返して背筋が冷たくなった。 そう言えば、自分が切り伏せたあの天使のようなマシンも、まともに考えれば交戦域だったのに気付かなかった。 青い重装なマシンに関しても、ある程度を通り越してかなりそばでやっと気付いたものだった。 そして、今自分も向こうの接近を目視できる辺りまで気付かなかった。 ……どうも、ここはレーダーがあまり役に立たないらしい。 ある程度高性能なレーダー――戦艦や電子戦用――はともかく、普通の戦闘用のマシンのそういった機能は低下しているとしか思えない。 つまり、予想外からの一撃、その一瞬で終わる可能性だってある。……もちろん、命が。 「逆に考えるんだ、こっちだって奇襲しやすい。こっちに有利だと思うんだ」 これは人と出会って行こうと考えている人間ほど、不利に働く。 出会うチャンスを見失うことも多いのだから。 では、逆に一番この恩恵を受けるのはどんな人間だ? ――他でもない、自分のように極力見つからないように身を隠し、不意討ちを仕掛けようとするような人間だ。 とことん、この会場は人を殺す側に有利にできてるんだな、と乾いた笑みを浮かべるのが限界だった。 その成果、とでも言うべきか。 さっきの放送では、21人もの名前が呼ばれていた。 ゴールが縮まった実感はまるでない。それどころか、まるで今やっとスタートラインに立ったような気がする。 統夜は、コクピットの壁に小さく頭を打ち付けた。 「こんな時に、なに迷ってるんだよ……」 今更ながら……放送に、自分とテニアの名前が呼ばれなかったことにほっとした自分に嫌悪感を覚える。 自分は死んでないのだから、呼ばれるはずがないと頭では分かっていても、 挙された名前に自分と自分の知り合いが含まれていないことを感じて心底自分は安堵していたのだ。 あれほどさっき心に決めたはずなのに、放送一つでまた悩んでしまう自分の弱さが疎ましかった。 「どうせ、みんな死ぬんだ。いまさら悩んだって仕方ない」 そう自分を鼓舞する統夜。 ゆらりと、真っ赤な目を輝かせ幽鬼ごとくヴァイサーガが立ち上がる。 こっそりと、通信を合わせてタイミングを取ろうとして……やめた。 相手の会話を聞いたって、なんになるだろうか。 まして、相手は「一人」なのだ。仲間の機影も見えないのに、一機でぶつぶつ何かを言うことはないだろう。 とにかく、相手が一瞬でも隙が見せたら、そこに光刃閃を叩き込む。 それ以外、ない。 ビルの暗がりで、暗い決意を胸に少年が立ち上がる。 銀の背中を追いかけて。 ― ― ― ― 「遅い! ……ガロードはいったいこのエリアのどこで待っている!?」 今にも癇癪玉を破裂させそうなクインシィに、肩をすくめるジョナサン。 その動きがまた更に癇に障ったのか、クインシィは声を張り上げた。 「なにか文句があるか、ジョナサン=グレーン! 放送は聞いたろう、ガロード生きている。 なら、必ずこの周辺にいるはずだ!」 「オーケイ、クインシィ。今回ばかりはあんたと同意だ。ガロードと合流することは、すべてに優先される」 やれやれと思う気持ちをぐっと押し隠して、ジョナサンは真・ゲッター2を走らせる。 確かに、放送を聞く限り、確かにガロードは死んでいない。 だが、これは死んでいないだけでここに来られない可能性も、十分にあるはずだが…… 第一その合流する予定だった相手も信用できるのか。そいつに、後ろからドカン、と放送後にされたかもしれない。 ともかく生きている以上、ガロードはここに来ると信じているというわけか。 放送前には二人はC-8エリアに侵入していたわけだが、ガロードと合流相手はまだ来ていないのだろうと待っていた。 放送を聞いて20分。生きていることが分かり、さすがに遅いという話になったため、こうやって真・ゲッター2で探索しているのだ。 さすがに、人間に例えれば100mを4秒台で走りける真・ゲッター2。 それでも、1エリアが50km四方となれば、60m級の機械でも1,5km四方には相当するだろう。 こうやって駆け回って探し出して5分。地を走るゲッター2では効率が悪い。 「ジョナサン、私に変われ」 ――空から探すのか? 逆に、襲撃者がいれば格好の的だろうな。 そんな言葉が喉までせりあがったが、さらに飲み込む。 今断れば、分離してでも探しに行きかけない気配がクインシィからは発散されている。 まったく、病気が過ぎる。だが、どちらも危険となればまだ自分が同伴しているほうが安全は高まる。 「……そちらも分かった。 チェェェエエンジッ!」 「真・ゲッター1!」 音声入力とは言え、毎回こうやって叫ぶのかと喉を首輪の上から小さく触る。 瞬間、3機の戦闘機に分離して、ゲットマシンが空に舞い上がる。 それでも、一応不審なモノはいないかと地上のビル群をカメラで睥睨したとき――― ジョナサンの視界の端、闇に隠れて見にくいが、確かに濃紺の影がよぎる。 しかも、確実に、こっちに向かってきている――! 「クインシィ、敵だ! 的になる前に避けろ!」 とっさの判断。今ここで、重要なのは見えた影が敵か味方かにあらず。 自分が、無防備な姿をさらしていることこそなによりも気にすべきことだ。 だから、ひとまず敵と決め付けて、危機感をあおる。 「どちらからだ!? このままわたしに操縦をよこせ!」 「そのまえによけるんだよ! ぐううああっ!?」 真・イーグル号を強引に追い抜いたため、強烈なGが体を締め付ける。 それでも、真・ベアー号に誘導信号を送り、急に絵の前現れた真・ジャガー号のため、 ふらついたイーグル号にドッキングさせる。 間一髪、真・ゲッター2は光の刃が届くよりも早く変形を完了させる。 「何をする、ジョナサン。私に変われ!」 「その返事はNO以外ない!」 そのまま、敵も確認せず安定もとらず真・マッハスペシャルを使用。 本来は、完全に分かれて3つになるはずの分身は、時間不足により半端に重なり合った形で現れる。 だが、相手は減速の様子を見せず、全速で突っ込んでくる。 そのまま光の速度で駆けあがる一刀は、空高く打ち上げられ…… 次の瞬間、3重の真・ゲッター2のうち、右端の一機の頭から股下まで切り飛ばした。 しかし、それはフェイク。本物は、中央の真・ゲッター2だ。 青騎士の撃ち出した一撃は、真・ゲッター2の右胸を大きく切り裂いただけで、撃墜には至らない。 6時30分。まだ暗く、空の果てがやっと白む世界で、光の矢が大地から空を貫くように飛んだ。 明けの明星のように輝くこの斬撃が、人を呼び寄せることになるとは……少年は気付かなかった。 刀を振り切ったまま切り抜け、急慣性で動きを変えることもできず、さらに空へ舞い上がる青騎士。 一方、それを尻目に大地へと落下していく真・ゲッター2。 この隙に、ジョナサンは地面に着地すると一目散に、青騎士から離れるように駆けだした。 「なぜだ!? なぜ逃げるジョナサン!」 クインシィの声。操縦に意識を割いていたため、無意識に声を大きくしながらジョナサンは答える。 必死に、集中のすきまでひたすら自分に冷静になることを意識させる。 「今は、ガロードと合流することが優先だ」 「目の前に現れたモノを投げ出してか!? あれは私たちを傷つける!」 「……俺は、ガロード・ランを信じていない」 「何をこんな時に言っている!?」 息を大きく吸って、一息に言い放つ。 「俺を信じ、従えと言うつもりはない。 『クインシィ・イッサーが信じているガロード・ラン』を信じろと言っている。 あんたの信じた男は、約束を破っていると決めつけて裏切れるほどの男か?」 「うっ―――」 言葉に詰まるクインシィに、さらにジョナサンは追い打ち同然の言葉をかける。 「もう一度言う。俺は、ガロード・ランを信じていない。だが、クィーンであるあんたの判断は信用する。 だから、俺は『ガロード・ランを信じているクインシィ・イッサー』の、ガロード・ランを信用する」 ――恨みもするが、今回は感謝もするぜ、ガロード・ラン。 真・ゲッター2がビルをドリルで掘り進みながら、ヴァイサーガから距離を取ろうとする。 しかし、ヴァイサーガもスラスターを全開にした高速移動で空を駆け、追走してくる。 「やるんだ……、今ならできる」 通信から漏れる相手パイロットの焦った声。 いいぞ、と内心笑みを噛み殺した後に、すぐに表情を引き締める。 相手は、こちらが合流しようとしていることを知らない。 いや、気づいていたのかもしれないが、相手を逃がすかもしれないという焦りでそれを忘れている。 ならば、このまま危険を覚悟で振り切るために建造物を破壊しながら走れば、ガロードたちは物音に気付く。 そうなれば、2対1……いやガロードと合流した相手もいれば、3対1の状況を作れる。 クインシィに危険が及ばないように真・ゲッターをひかせ気味に戦っても、盾になる駒がいれば問題ない。 一歩引いて、逆にこっちがガロードの合流相手を撃てる位置を維持できれば、さらに安全だ。 (問題は、本当にガロードが来るかどうかだが……) あれほどクインシィに大きく啖呵は切ったものの、本当はガロードのことをジョナサンは信じていない。 むしろ、キラのように来ない割合のほうが高いとも思っている。 時間を、ちらりと見る。 時刻 6:33分 ――30分だ。 同じエリア内にいるのであれば、どれだけビルのような障害物があっても、駆け付けられるはず。 30分たって合流できない場合、このエリアに来なかったと思っていいだろう。 ガロードとこのまま30分合流できない。 かつ、30分こいつを振り切ることができないのであれば…… 「自分がバロンとしてやるしかないということか」 ジョナサンの思考も、奇しくもだがアムロやブンドル……そして同時にテニアとほぼ同じ思考をたどっていた。 この場は、殺し合いに乗った連中のほうが、圧倒的に強い。そうでなければ、ここまで急激に減ることはないはずだ。 つまり、多少強いマシンでも、1機というのは危険すぎる。 だから、戦闘でき、かついざ自分が後ろから漏らさず撃ち殺すこともできるような…… 自分とクインシィを含み4,5名のグループを作る必要がある。 そのためには、結成の要因となるガロードの存在は必須だ。 彼女の病気が悪化する恐れもあるとしても、これは絶対。 クインシィが自分の制止を振り切り、単独で動き回る危険があるのは今さらな話だろう。 止めるのも難しい。 その行動に付きまとう危険は想像以上に高い。 はっきり言って、むき身の体でグランチャーやブレンパワードに戦うにも等しい。 それが、あの放送で知りえた情報だ。 クィーンたる女は、周囲の働き蜂のそばから離れてはいけない。仮に女王がそれを望んだとしても、だ。 だが、女王はだれの意にも従わず、自分の意思を通すだろう。 それが、女王なのだから。 (だからこそ、ガロードがいる。やつは勇と俺の身代わりになってもらう) ジョナサンは、考える。 ガロードはクインシィの抑制剤になりえる。 依存し始めた今ではその効果は中々といったところだが、これからさらに行動を共にすれば効果はぐんと上がるだろう。 女王を、自然と安全な方向に誘導する。 依存が加速することと、生死の危険を抑えること。 さっきまでは、前者の天秤のほうに傾いていると思ったが、実情逆だった以上迷いはない。 意地でも、ガロードにはクインシィを抑え、守ってもらう必要がある。 それが、ガロードに与える勇の身代わりとしての役目。 ジョナサンは、考える。 ガロードといれば、クインシィの暴走はひとまず抑えられる。 戦う力もある以上、クィーンのためのルークにもなりえる存在。 ならば、自分が何をすべきか。ジョナサンの目的は、女王をオルファンに帰還させること。 そのためには、クインシィを最後の一人にする必要がある。 反抗者を集って脱出する? あの化け物と戦う? その発想は、あまりにも甘ちゃんの発想だったと今のジョナサンは理解している。 放送を聞けば、一目瞭然。自然と、化け物と戦えるだけの力を持つ人間も倒れていくだろう。 ジョナサンの出した結論。 次の第3回放送ののち、グループを離れて参加者を狩る。 そして、最後に自分たちのいたグループ――ガロード含む――を殺す。 これから12時間で、クインシィの依存は完成するはずだ。 そうなれば、自分が目を切ることに問題はなくなる。 ジョナサンがいない間、クインシィを守る……それが、ガロードに与えるジョナサン=グレーンの身代わりとしての役目。 「女王のルークをやらせてやれる程には信用しよう、ガロード・ラン……!」 ジョナサンが、真・ゲッター2で駆ける。 ただ、ひたすら朝の街で他者信じて。 【紫雲統夜 登場機体 ヴァイサーガ(スーパーロボット大戦A) パイロット状態 微妙に焦り、マーダー化 機体状態 左腕使用不可、シールド破棄、頭部角の一部破損、若干のEN消費、烈火刃一発消費 現在位置 C-8端(C-7の市街地視認可) 第一行動方針 真・ゲッターを落とす。 最終行動方針 優勝と生還】 【クインシィ・イッサー 搭乗機体:真ゲッター2(真(チェンジ)ゲッターロボ~世界最後の日) パイロット状態:疲労小 機体状態: ダメージ蓄積 、胸に裂傷(中)※再生中 現在位置:C-8 第一行動方針:ガロードとの合流 第二行動方針:勇の捜索と撃破 第三行動方針:ギンガナムの撃破(自分のグランチャーを落された為逆恨みしています) 第四行動方針:勇がここ(会場内)にいないのならガロードと協力して脱出を目指す 最終行動方針:勇を殺して自分の幸せを取り戻す】 【ジョナサン・グレーン 搭乗機体:真ゲッター2(真(チェンジ)ゲッターロボ~世界最後の日) パイロット状態:良好 機体状態:ダメージ蓄積 、胸に裂傷(中)※再生中 現在位置:C-8 第一行動方針:ガロードとの合流 第二行動方針:強集団を形成し、クインシィと自分の身の安全の確保 第三行動方針:第3回放送後は、参加者を狩る。 最終行動方針:どのような手を使ってでもクインシィを守り、オルファンに帰還させる(死亡した場合は自身の生還を最優先) 備考:バサラが生きていることに気付いていません。 →戦いの矢(2)
https://w.atwiki.jp/srwbr2nd/pages/21.html
恋と呪い ◆ZbL7QonnV. 支給された機体の中、テンカワ・アキトはこれからの事について考えを巡らせていた。 (殺し合いだと……? 馬鹿げている……だが、その馬鹿げたゲームに巻き込まれた事もまた確か……。 どうする……このゲーム、乗るべきか……?) ラピス・ラズリのサポートを受ける事が出来ない現在、アキトの身体機能は著しく低下している。 だが、幸いにもと言うべきか。自分に支給された機体―― YF-21の操縦方法は、パイロット自身を制御系等に組み込むBDIシステムである。 このシステムのおかげで、アキトは不十分な肉体であっても機体を手足の延長として使う事が出来ていた。 いや、それだけではない。 センサーと接続された脳神経は、アキトにかつて失ったはずの感覚を取り戻させていた。 そう、見えるのだ。 はっきりと、目が見える。 ラピス・ラズリのサポートを受けていた時を遙かに上回る精度で、全天周360度の光景が見えるのだ。 YF-21のセンサーを通じて、アキトは失われたはずの視力を取り戻していた。 ……戦える。 この機体があれば、自分は戦う事が出来る。 しかし―― 「…………」 ……自分には何を犠牲にしても生き残らなければならない理由があった。 それは、復讐。 妻と己の五感を奪い、自分の人生を狂わせた奴等――火星の後継者。 奴等を皆殺しにする為ならば、悪魔にも魂を売ると彼は誓った。 だが――何故なのか。 何故、このゲームに――“彼女”が――――! 「…………ユリカ」 あの会場で、確かに見た。 視力補助のバイザー越しに、自分は確かに確認したのだ。 同姓同名の別人ではない。 このゲームには、遺跡に取り込まれたはずの妻が――ミスマル・ユリカが参加している。 あの主催者に救い出され、そしてこの殺し合いに参加させられてしまったのか――? いや、それともボソンジャンプのような時間干渉技術を使い、今ではない時代のユリカを連れて来たとでも言うのか? ……だが、どちらにしろ、あれはユリカだ。 このゲームに勝つと言う事は、彼女を殺さなければならないという事。 そしてこのゲームの勝利を諦める事は、復讐を諦めなければならないという事。 ……どうする? このゲームに勝つ事を諦めて、復讐を断念するのか……? ……無理だ。そんな事、出来る訳がない。 ならば、殺すのか? 彼女を――ユリカを、この手で―― 殺せるのか? 自分は――彼女を―― ――殺せるのか? 「…………殺せるわけが、ないだろうっ!」 ……血を吐くような声で、言う。 復讐は諦められない―― だが、彼女は殺せない―― ならばどうしろと―― いったい、俺にどうしろとッッッッ!! そして彼が迷いの中、今後の方針を決めかねているその時だった。 「あ、あの……すいません。あなたは、このゲームに乗っている人……なんですか……?」 「っ…………!」 ……怯えを含んだ、聞き知った声。 通信機の画像に視線を向けると、そこには求めて止まない最愛の女性が―― 【テンカワ・アキト 搭乗機体:YF-21(マクロスプラス) パイロット状況:良好、苦悩 機体状況:良好 現在位置:D-7 第1行動方針:……ユリカと話す 最終行動方針:???】 【ミスマル・ユリカ 搭乗機体:無敵戦艦ダイ(ゲッターロボ!) パイロット状況:良好、不安 機体状況:良好 現在位置:D-7 第1行動方針:戦闘機に乗った人(アキトとは気付いていない)と話をする 第1行動方針:仲間を集める 最終行動方針:ゲームから脱出】 【初日 12 40】 BACK NEXT Opening 投下順 DARK KNIGHT 黄色い幻影 時系列順 情け無用のロンリーウルフ BACK 登場キャラ NEXT アキト 闇色をした『王子』さま ユリカ 闇色をした『王子』さま
https://w.atwiki.jp/srwbr2nd/pages/137.html
爆熱! ゴッド晩ごはん!! ◆ZbL7QonnV. 「くっ……くくっ、はぁーっはっはっはぁ! よもや、黒歴史に名高い伝説のニュータイプ、アムロ・レイと一戦交える機会を与えられようとは……! いや、それだけではない! 小生と互角に渡り合ったアイビス・ブレン! 先程の獅子に、巨大化する赤い虫! そして紫雲統夜にクインシィ・イッサー! 黒歴史に名を刻まぬ未知の兵どもに、モビルスーツならざる未知の機体! 心が震える! 血が煮え滾る! 小生の闘志が真っ赤に燃えるぅぅぅぅぅぅぅッッ!」 歓喜。いや、それとも感動と言うべきだろうか。 ともあれギム・ギンガナムは溢れ出る激しい興奮を抑えようともせず、叫ぶような哄笑を上げ続けていた。 「アムロ・レイもいたのだ。もしかしたら、ドモン・カッシュやマスターアジアも、この戦に招待されておるのやもしれん! もしそうであれば、望む所よ! このシャイニングフィンガーを以ってして、キング・オブ・ハートに土を付けてくれる! うむ、実に楽しみだ! ハハ、ハハハ……!!」 そういえばと、思い出す。 これまでは気にも留めていなかったが、先の放送が流れた時にも知った名前は幾つかあった。 リリーナ・ドーリアンに、ラクス・クライン。黒歴史の中で平和を唱えた、惰弱極まる女ども。 この二人が真っ先に死んだと言う事は、それ即ち平和などと言うものが何の意味も為さない事を意味している、という事に他ならない。 彼女達の唱える平和など、やはり小娘の奇麗事に過ぎんのだ。 きっと、この殺し合いの場ですら奇麗事を貫こうとして、聞く耳持たずに殺されたのだろう。 愚かな事だ。戦いに身を委ねさえしていれば、死なずに済んだかもしれないものを。 だが、彼女達は死を以って、平和を説く事の無意味さを証明してくれたのだ。 そう、自分は間違っていなかった。戦いこそが、人の性なのだ……! 「さて。アムロ・レイは逃したが、他にも手馴れの戦士が近くにいるやもしれん。 まずは探索を……と」 次なる強敵を求めて移動しようとするギンガナム。だが、興奮が若干落ち着いてきた事によって、ようやく彼は気が付いた。 ぐぅ……。 腹の虫が、鳴っている。 「ふむ……これは小生とした事が迂闊であったな……」 戦いに身を入れ込むあまり、自分の身体に注意が回っていなかった。 これまで多くの激戦を続け様に行ってきた事により、ギンガナムの身体は本人が思っている以上に消耗していた。 これまでは気力で保たせていた所もあったが、それも永久に続くわけではない。 ただでさえ、モビルファイターの操縦には体力を使うのだ。これからも激戦が続く事を考えれば、少しは身体を休めるべきかも知れない。 消耗した状態で戦を挑むなど、強敵に対して無礼というものだろう。 「よし、腹が減ってはなんとやらだ。ここらで何か腹に入れておくのも良いだろう」 モビルトレースシステムをカットして、ギンガナムはどっかりと腰を下した。 そしてノイ・レジセイアに支給された食料品の中から適当に一つ―― ビニールで包装されたパンを取り出して、包装から取り出したそれを何の気無しに口の中に放り込む。 ――その瞬間、盛大に噴出した。 「ぐわぁぁぁぁぁぁッッッッ!? な、なんだこれは! 唇が熱い! 舌が痛い! 小生の喉が真っ赤に燃える、水が欲しいと轟き叫ぶぅぅぅぅぅぅぅっぅッッッッ!!」 それは、激痛すら伴う超絶的な辛味だった。 「お、おのれ、レジセイア! よくも小生にこのような……と、何ィ!?」 あまりの辛さにのた打ち回りながら、パンの包装に目を向けてみると、そこには“爆熱ゴッドカレーパン”の文字。 そう、つまりこれは……このパンは……。 「…………はっ。ははっ、はははははっ! そうか……なるほど、そういう事か…………!」 黒歴史の中で語られてきた、人類の果て無き闘争の記録。 それを飽く事無く読み解き続けてきたギンガナムであればこそ…… ガンダムファイターと呼ばれる強者達の戦いを知るギンガナムであればこそ、それが何を意味するのか、理解する事が出来ていた。 そう……“爆熱”で“ゴッド”と言えば、あの男に関係する物以外に考えられない……! 「流石なり、ドモン・カッシュ! この小生に対する挑戦状……しかと受け取った!」 もはや“殺人的”と呼べるほどまでに昇華された、激辛カレーパンの破壊力。 だが、それもキング・オブ・ハートの必殺技に例えられるほどのものと考えれば、むしろ闘志が湧き立つというものだ。 「だが、小生は負けん! 断じて、負けはせんのだぁぁぁぁぁッッッッ!」 こんなカレーパン如きに屈する無様を晒すようなら、ドモン・カッシュを打ち破ろうなど夢のまた夢である。 決意も新たに、ギンガナムはパンに齧り付く。 そう……その殺人的な威力を込めたカレーパンを、水の助けを借りず食い尽くす為に……! ……だが、彼がこの事実を知ったら、どんな顔をするのだろうか。 そのパンがドモン・カッシュとは全く何の関係も無い……と言うか、それ以前に未来世紀で作られた物ですらないという事実を……。 【ギム・ギンガナム 搭乗機体:シャイニングガンダム(機動武闘伝Gガンダム) パイロット状態:テンション最高潮(気力150) 機体状態:右腕肘から先消失、胸部装甲にヒビ、全身に軽度の損傷 現在位置:H-1 第一行動方針:倒すに値する武人を探す 第二行動方針:アムロ・レイ、アイビス・ブレンを探し出して再戦する 最終行動方針:ゲームに優勝 備考:ジョシュアの名前をアイビス・ブレンだと思い込んでいる 爆熱ゴッドカレーパンをドモン・カッシュに縁の食べ物と思い込んでいる】 【初日 22 00】 BACK NEXT 火消しと狼 投下順 鍵を握る者 噛合わない歯車 とある竜の恋の歌 時系列順 火消しと狼 BACK NEXT 失われた刻を求めて ギンガナム Unlucky Color